本研究は中小企業のマイクロデータを使って、2007年以降の金融危機や2011年の東日本大震災により、流動性不足に陥った中小企業がどのような資金調達行動を行っているかを明らかにすることをを目的とする。 27年度は主に、26年度に引き続き、2007年以降やそれ以前の金融危機に焦点を当て分析を行った。27年度に分析を行ったのは以下の点である。第一に金融機関と中小企業の融資関係の終了がどのように発生するのか、分析を行った。分析の結果、借り手である中小企業のリスクが高い場合において、融資関係が終了する可能性が高くなることが明らかになった。また、借り手側の需要要因も大きく、現預金やキャッシュフローが高い企業、総資産の成長率が低い企業、必要運転資金が少ない企業ほど、融資関係が終了することが明らかになった。近年(とりわけ金融危機時)において、金融機関の資金供給の減少による、融資関係の終了が注目を集めているが、金融機関と中小企業との融資関係の終了は効率的に行われていることが明らかになった。第二に融資関係が終了した企業は、金融危機時にどのように資金需要に対応しているのかを考察した。先行研究において、融資関係の継続によるベネフィットは、金融危機時における安定的な資金供給にあることが主張されている。このことは融資関係を持たない中小企業は金融危機時に高い資金制約に直面することを意味する。2008年以降のリーマンショック時の分析を行った結果、融資関係を持たない中小企業は現預金の取り崩しで金融危機時の調達を行っていることが明らかになった。ただし、現預金を多く保有する、融資関係を持つ企業と比較すると、融資関係の有無に関係なく金融危機時には現預金の取り崩しをより多く行っていた。つまり、融資関係が終了したことのコストはあまり深刻でないことが明らかになった。
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