以下2項目を実施した。 【1、金融リテラシー測定項目の難易度に着目した検証】前年度、金融リテラシーの測定項目群の組み合わせ(集計に使用する項目の違い)が推定結果に影響を与え得ることが懸念された。これに関して、項目反応理論などを用いて各設問の難易度を検証した。その結果、極端に難易度の高い(低い)設問や、調査年度による正否の極端な差異は確認できなかった。一方で、クロンバックのα尺度などを測定すると、低難度・中難度・高難度に分割することも統計的に支持されることが確認された。そこで、アメリカに居住する者を対象に、難易度別の金融リテラシーと住宅ローンの保有・返済状況との関連を検証した。その結果、住宅ローン債務の返済不能を経験した者のリテラシー水準は、債務返済中あるいは完済した者と比べて低いものの、有意差は確認されなかった。ただし、リテラシーに関する質問を難易度で区分すると、返済不能の経験の影響は低難易度の質問に対してのみ確認された。なお、日本のデータを用いると、異なる傾向が示された。 【2、住宅市場の不況と金融リテラシーとの関連】アメリカでは、2005年以前に急成長した(金利が下落した)住宅ローン市場が2006年以降に冷え込み(金利が上昇し)、その2年後に金融危機を迎えた。そこで、2006年以降の住宅ローン市場の低迷期にローンを取得した者は、それ以前に取得した者より金融リテラシーが高いか、検証した。その結果、ローンを固定金利にした者は、取得時期によるリテラシーの差異は確認できなかった。ただし、2006年以降に変動金利でローンを取得した者のリテラシーは低いことが確認された。 前者は、第29回応用地域学会研究発表大会にて「住宅ローン債務の返済不能と金融リテラシー」として報告し、後者は「住宅市場の不況と金融リテラシー」の論題で、名古屋大学・国際経済政策研究センターにてセミナー報告を行った。
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