本年度の研究では、時間非整合的な選好を持つ起業家による企業の投資と資本構成の意思決定について、理論モデルを構築して分析を行った。時間整合的な選好の下での結果をベンチマークと見なせば、時間非整合的な選好は投資を遅らせる一方、倒産を早めることが分かった。時間非整合的な選好による影響をさらに詳しく考察するために、起業家の将来の行動に対する信念について、sophisticatedとnaiveという2つのタイプに分けて分析した。前者は、将来の自分は現在時点ではなく、その将来時点における自分の選好に従って行動すると予想できる。それに対して、後者は、将来の自分は現在時点における自分の選好にコミットして行動すると誤って信じる。時間非整合的な選好による影響は、起業家の将来の行動に対する信念に依存していることを明らかにした。具体的に、ベンチマークに比較して、naiveな起業家はより高いレバレッジ(負債比率)を選択する一方、sophisticatedな起業家はより低いレバレッジを選択する傾向にある。これらの結果は,起業家ファイナンスにおける実証研究の結果に合致している。時間非整合的な選好を考慮することで、「なぜ似たようなファンダメンタルズを持つ企業は異なるレバレッジを選択するか」というレバレッジの謎を解明することができた。 上記の研究成果を論文"Capital structure and investment decisions under time-inconsistent preferences"としてまとめ、国際学会2015 Annual Meeting of the Asian Finance Associationにおいて報告した。また、査読付き学術雑誌Journal of Economic Dynamics and Controlに投稿し、採択された。
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