本研究は、我が国の金融危機時(1997―98年)の銀行データを用いて、金融危機がインターバンク取引に与える影響を分析することを目的としている。分析の結果、借り手銀行の信用リスクとインターバンク取引条件の関係が金融危機前と金融危機時とで変化したことが明らかになった。危機前は、銀行の信用リスクとインターバンク借入量の間に有意な関係が見られなかった、一方、危機時には、信用リスクの悪化した銀行ほど、借入量が少なくなる関係が見られた。そして、信用リスクの高い銀行ほど日本銀行からの借入を増やしていたことが分かった。これらの結果は、危機時のインターバンク市場において、貸し手が信用リスクに過敏に反応し、信用リスクの高い一部の銀行が市場から資金を調達できなくなったことを示唆するものである。 最終年度では、インターバンク市場の機能不全の原因を再検証する分析を行った。危機時にインターバンク市場取引が縮小する原因を、各銀行の流動性確保の動機から説明する理論がある。各銀行は、流動性の調達が不安定になることに備え、流動性を手元に確保しようとする動機が強くなる。その結果、各銀行は貸出を控えるようになり、インターバンク取引が縮小するとされる。この理論を検証するため、各銀行の流動性の指標とインターバンク貸出量との関係を分析した。しかし、流動性の指標とインターバンク貸出量との関係は観察されなかった。したがって、1997-98年の危機時におけるインターバンク取引の減少は、各銀行の流動性確保の動機が原因でないと考えられる。 本研究では、危機時におけるインターバンク取引減少の原因が、信用リスクに対する貸し手の過敏な反応であることを明らかにすることができた。この研究結果は、公的資金による資本増強といった政府当局による銀行の信用リスク改善策が、インターバンク市場の機能回復に有効であることを示唆するものである。
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