研究課題/領域番号 |
24730291
|
研究機関 | 公益財団法人三井文庫 |
研究代表者 |
木庭 俊彦 公益財団法人三井文庫, 社会経済史研究室, 研究員 (10553464)
|
キーワード | 経済史 / 経営史 / 交通史 / 石炭産業 / 港湾荷役 / 帆船 |
研究概要 |
平成25年度には、前年度に引き続き、明治期の九州地方における石炭輸送関連資料の残存状況を調査し、資料の撮影、複写、データ入力作業を行った。また、研究目的の一つである九州北部の石炭輸送の実態を解明するために、三井三池炭鉱の一次資料を分析し、その結果を公表した。 本研究では、明治期の三井三池炭鉱で産出された石炭は大牟田から口之津までの中継輸送を必要とし、その比較的に近距離の輸送を小規模な帆船業者が担っていたことに注目した。これまでの研究では、帆船業者と三池炭鉱の取引関係を把握しようとしなかったため、個々の帆船が安定的な輸送力として機能した要因を解明することができなかった。 本年度の成果によれば、大牟田を起点とする有明海での石炭輸送では、多数の炭鉱業者(荷主)が存在する筑豊炭の瀬戸内海輸送の事例とはやや異なる様相が確認された。筑豊炭の積出地である若松港では、帆船業者の仲介者(回漕店)が海運取引上で重要な役割を担っていたが、大牟田では同地に居住する船主の同業者組織(大牟田町の有力な企業家が強い影響力を有する同業組合)が取引の基盤となっていた。 以上の分析結果は、石炭という同一の貨物であっても、荷主の存在形態や航路によって異なる海運取引のあり方が成立することを示している。今後、事例分析をさらに積み上げていくことが求められる。有明海における三池炭輸送との比較を念頭におきながら、筑豊炭の海上輸送でみられたような取引の特徴が、明治期の若松港でいかに形成されていったのかという点について考察していく必要がある。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度において、前年度と当該年度に収集した資料をもとに分析をすすめたことで、研究計画でかかげた課題の一つはクリアすることができた(明治期の三池地方における帆船輸送の問題)。加えて、三井三池炭鉱の港湾荷役に関する資料の収集、データ入力も順調に進行しており、その分析結果を近いうちに公表する予定である。 他方で、平成24、25年度の調査の結果、研究計画作成中には予想できなかった資料の残存状況が確認され、計画よりも詳細な分析が可能になることが見込まれている。そのため、三井三池炭鉱の輸送関係資料および麻生商店の経営資料(九州大学所蔵)の選定、収集、データ入力に想定を上回る時間を費やしている。しかし、豊富な一次資料が残されているということは、具体的な事例分析をすすめていくうえで望ましいことであり、本研究計画の目標は着実に達成されつつあるといえる。
|
今後の研究の推進方策 |
平成26年度においては、これまでの調査で収集できなかった資料を閲覧、複写するとともに、分析作業も同時にすすめていく。その成果を主要学会で報告し、論文としての公表を目指す。 最終年度の分析作業は以下の二点を予定している。 第一に、三井文庫所蔵の三池炭鉱の資料を利用して、三池港における石炭積込の機械化と、それにともなう荷役組織の変遷について考察する。三池港の事例を、日本における港湾荷役業界の再編過程のなかに位置づける。 第二に、九州大学所蔵の麻生家文書のうち、明治期の筑豊炭流通に関する資料を収集する。同資料群には、麻生商店の本店・各出張所の帳簿が多数含まれており、経営状況を示すデータとして入力作業を行う必要がある。また、広島県、愛媛県、香川県において、瀬戸内海沿岸の塩田関係資料を探索し、消費地の視点から石炭輸送を分析する材料としたい。
|
次年度の研究費の使用計画 |
資料の残存状況が予想以上に良好であり、平成25年度においては、そのデータ入力作業に多くの時間を費やした。そのため、本年度に予定していた九州大学での資料の閲覧、データ入力が困難となり、次年度にずれ込む結果となった。本研究計画に関連する資料の収集、データ入力は専門性の高いものであり、アルバイト等に委託することはできない。したがって、使用計画に記述するとおり、最終年度においても、資料の撮影とデータ入力のために比較的多くの旅費が必要となる。 平成25年度に予定していた九州大学記録資料館での麻生家文書の閲覧、資料収集、データ入力を行うため、また、瀬戸内海沿岸における塩田関係資料、船主資料の残存状況を調査するための旅費として活用する。さらに、本研究計画をまとめるうえで参考となる書籍の購入などに使用する予定である。
|