研究課題/領域番号 |
24730298
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
三俣 延子 同志社大学, 経済学部, 助教 (70609552)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 環境史 / イギリス / 有機性廃棄物 / 有機質肥料 / 下肥 / 魚肥 / 海藻 / リン |
研究概要 |
研究の目的は,有機性廃棄物が肥料という資源として農業利用されてきた経緯や方法を解明することである。特に,都市の屎尿など(生活廃棄物),または,漁場の海藻や腐敗した魚など(産業廃棄物)の肥料化に着目し,都市から農村,または,海域から陸域への栄養分の循環的利用が実現していたことの証左を得,その現代的意義を考察である。平成24年度の実施計画では,①イギリスでの資料収集と②学会報告ならびに論文作成を予定していた。 ①については,8月に,主としてイギリスのノーフォーク州にて文献調査を実施した。Norfolk Record OfficeやKings Lynn Borough Archivesにて当該期の古文書を閲覧・複写したほか,州内のNorwich,Yarmouth,Hunstantonなど複数の市町村の博物館,図書館,役所にて文献収集や展示物の閲覧などを行った。これにより,ノーフォーク州における都市廃棄物ならびに海藻の肥料化に関する一次資料が収集できた。また,その現代的意義については,地元の水道事業者(Anglian Water社)や複数の研究所(Port Erin Marine Laboratory, Scottish Marine Institute Oban)などに聞き取りや現地見学を行った。 ②学会報告は,前年度までに収集していた資料の分析を中心に,「魚肥と海藻肥料の環境経済史」(社会経済史学会),「屎尿経済の再構築と社会的条件」(環境経済・政策学会)の2つを行った。ほか,研究会での報告を実施した。論文については,図書の担当章「下水汚泥の嫌気性発酵(メタン発酵)にみる英国の環境政策」と,紀要「下水汚泥の資源化にみる意識改革」を執筆(2013年度刊行決定)し,近現代のイギリスでの下水汚泥の肥料化の動向について発表する機会を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度の実施計画では,①イギリスでの資料収集と②学会報告ならびに論文作成を予定していたが,それらについてはおおむね計画通りに実施できた。①イギリスでの資料収集については,ウェブ上での事前調査をもとに現地の資料館に所蔵資料の請求をしたうえで,現地にて閲覧・確認を行った。結果,都市廃棄物ならびに海藻肥料については,分析するうえで重要であると考えられる資料が収集できた。ただし,魚肥の利用については資料がやや不足している。②学会報告については,予定通り,2つの学会の全国大会において報告を実施した。そのほかに,研究会(三俣延子「食料生産のための地域資源活用術―2つの島国の事例―」(「都市・地域研究」研究者会議,於同志社大学人文科学研究所,3月8日)での報告を実施し,イギリス調査後の資料の分析について考察を深めた。また,論文については,当初の実施計画にはなかったが,紀要と図書の原稿を執筆する機会があり(いずれも2013年度刊行決定),イギリス調査の結果の一部を発表するという成果を得た。
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今後の研究の推進方策 |
まず,上記①イギリス調査において収集した一次資料の分析を進めることが課題である。すでに,平成24年度に学会・研究会での報告を合計3件実施しているが,今年度も,三俣延子「廃棄物の環境史-近代イギリスにおける海・都市・農村のマテリアル・サイクル―」(越境する歴史学研究会,於京都大学人文研究所,4月20日),三俣延子「廃棄物の環境経済史-イギリスの海・都市・農村(1793-1880年)―」(社会経済史学会近畿部会例会,於大阪学院大学,6月15日)での報告があり,そこで得るアドバイスも踏まえながら,分析・考察を深めたい。その文献考証については,上述(「現在までの達成度」)の通り,また,交付申請書の実施計画でも言及した通り,特に魚肥については,追加的な資料の収集が必要になっている。したがって,追加的な資料収集を実施しながら,研究者との交流を行い,文献考証を引き続き行って,論文作成につなげることが今年度の推進方策である。
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次年度の研究費の使用計画 |
予定通り,追加的な資料収集や研究会のために研究費を使用する計画である。ただし,国内での資料収集については,本研究課題の採択後に採択された別の外部資金(平成24年度大学コンソーシアム京都「未来の京都創造研究事業」,50万円)によって,すでに平成24年度中に購入できた図書や資料がある。そのため,交付申請時の実施計画では,平成25年度には国内で資料収集するための予算を多く計上していたが,現状では,そのために予定した研究費を他の予算に再配分することも可能になっている。また,今年度中に予定していた英文校正は,平成24年度のイギリス調査時に一度に効率的に実施したため,そのために予定してた研究費も他の予算に再配分することも可能になっている。したがって,これらの予算を再配分することによって,追加的な資料収集のために再度イギリス調査を実施する予算をねん出することも可能である。これが妥当かどうか,現在検討中である。ただし,その場合にも,追加的な資料のみを収集することを目的とし,比較的短期間での滞在に留めるなど,効率的な研究費の使用ができるように工夫する。
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