本研究は、メーカー側ではなく、ユーザーが生み出すイノベーション(ユーザーイノベーション)に注目し、ユーザー自身がどのようにしてイノベーションを生み出すのかを解明するものである。1970年代後半以降、ユーザー自身がイノベーションを生み出すケースが多くの製品・産業において確認されてきたが、どのようなプロセスを経てユーザー自身が製品化を行うのかというイノベーションの動態面については研究蓄積が少なかった。本研究では、こうしたプロセスの動態面に注目し、ユーザーによる製品開発中に起こるアクター同士の相互作用やプロセスの流れ、開発期間中に重要となる要因などの解明に取り組んできた。こうした研究から、ユーザーによるイノベーションには、開発する製品特性や技術環境の違いによって、関連するアクターやプロセスの流れが異なることが分かった。特に、ユーザーによるコミュニティが生まれ、コミュニティにおいて継続的に製品開発が進むケースでは、イノベーションを生み出す中心となるリードユーザー以外にも、多くのユーザーが異なる役割を担いながら開発が進むことが分かった。企業側から見た場合、ユーザーによるイノベーションをいかに自社に取り込むかという問題は、こうしたユーザー側のプロセスの可視化を可能にすることで、より効果的なサポートやイノベーション活動の促進が可能となる。さらに、本研究期間中に対象範囲を広げ、こうしたユーザーによるイノベーションが米国や日本だけではなく、ますます重要性を高めつつある新興国圏においても発生することや、それらの意義についても確認することができた。こうした地域でのイノベーション活動、及びユーザーによるイノベーションの発生と展開については今後も継続的に検討していく必要があると考えている。
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