研究実績の概要 |
本研究の全体構想は,多国籍企業(以下では,MNC(Multinational Company)と略)内部において本社と海外子会社の間,もしくは海外子会社間における知識移転メカニズムを本社と海外子会社の相互作用の視点から明らかにすることにある. この問題を考察するために,本研究では組織内の知識移転について次の視点を導入する.それは,知識移転の問題は,海外子会社が創造した知識が移転できるか(able to transfer)という問題と海外子会社が知識を移転する気があるか(willing to transfer)という問題を分けて考えるというものである(Mudambi and Navarra,2004).この二つのうち,後者の視点に立つのが本研究の特徴である. この視点に立つと,MNC内で知識移転に対してイニシアティブを持つのは,本社ではなく,むしろ各海外子会社ということになる.この状況では,各海外子会社は,MNC全社の利益ためではなく,海外子会社のみの利益ために知識移転を利用しようとする可能性がある.特に,本社との関係において,海外子会社は自らに有利な資源配分を獲得するために知識移転を利用するというレント・シーキングを行なう可能性がある.本研究では,MNC内におけるレント・シーキングについて,聞き取り調査に基づく詳細な事例研究を行った. 事例研究によって明らかになったことは,海外子会社のレントシーキング活動に伴う地域統括会社の機能不全である.多くのMNCは地域統括会社を設立している.しかしながら,知識移転において地域統括企業はその役割を十分に果たすことができていない.そのメカニズムを事例を通じて本研究では明らかにした.このメカニズムは学術的にも実務的にも多くのインプリケーションをもたらすことができた.
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