今年度の研究において、大きく2つの成果としてまとめることができる。 第一に、「障がい者のクロネコメール便配達事業」の実現により、当該事業に関係するステイクホルダーに変化が生じていることが明らかになった。メール便を配達する当事者たちには、従前よりも体調が安定したり仕事への自信が回復したという報告がみられ、またヤマト運輸社員にも意識変化(「支援される対象」から「戦力となるビジネスパートナー」へ)が見られた。 第二に、前年度に予定していた調査内容に追加・修正を行い、調査対象としてヤマトグループにおける「宅急便1個につき10円寄付活動」を加え、これらを東日本大震災におけるソーシャル・イノベーションとして位置づけてその具体的な実現プロセスにおける正統性要因を明らかにするとともに、それに伴う制度変革の内容を明らかにした。 この事例から明らかになったソーシャル・イノベーションの正統性要因は、「震災を契機とした社会的危機感」、「従前からのヤマトグループのCSR活動への理解」、「企業文化」の3点であった。また、この正統性要因は、アイデア創出当初から用意周到に準備されていたものではなく、結果としてその場その場で臨機応変に創造され、ヤマトグループのステイクホルダーから支持と理解を獲得していた。そして、このヤマトグループの一連の行動により、指定寄附金制度の適用拡大がなされた結果、142億円の寄付金の全額無税扱いを実現させるに至り、既存の寄付税制のあり方を変革したことが明らかになった。
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