研究課題/領域番号 |
24730334
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 神奈川大学 |
研究代表者 |
山本 崇雄 神奈川大学, 経済学部, 准教授 (30318761)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 日系多国籍企業 / 海外子会社 / 探索的イノベーション / 活用的イノベーション / 関係性のマネジメント / 埋め込み |
研究概要 |
3か年の研究計画の1年目にあたる平成24年度までの研究実績は以下の通りである。 第1に、関連する文献レビューについてである。本研究課題の鍵概念である「双面性(ambidexterity)」のマネジメントは、イノベーション論や経営組織論のみならず、ビジネス・ネットワーク理論や埋め込み理論、国際起業家精神論など幅広い研究領域に関連している。ケーススタディのフレームワーク構築にあたり、幅広い既存研究の渉猟を行ってきたが、本年度は、特に海外子会社が現地コミュニティとの関係構築をいかに図るのか、に関する研究に重点を置いた。そうした埋め込まれた関係の構築からこそ、現地に根ざした新奇な知識にアクセスできると考えられるためである。 これまでの文献レビューから示唆されたのは、以下の点である。すなわち、海外子会社が現地市場に対して「コミットメント」を行い、よそ者(outsider)から内輪(insider)と見なされることが重要といえる。だが、どのような企業活動を通じてそのような変化を成し遂げられるのかは既存研究で明らかとなっていない。この文献レビューについては、部分的なものではあるが、『経済貿易研究』第39号(2013年)に掲載が確定している。 第2に、パイロット・ケーススタディを以下のとおり実施した。海外では8月にベトナム(ホーチミン)、タイにおける複数の日系多国籍企業(MNC)の子会社で実施し、国内では商社や部品機械などの多国籍企業本社に実施した。これらのインタビュー調査から、新たな国際事業開発のためには、海外派遣者の企業家精神や、現地アクター(供給業者や政府組織など)との特定なコネクションの構築が重要であることが示唆された。 第3に、研究関心が共通する研究者との会合を開催したり、海外学会(AIB UK&I)に参加することによって、本研究に関する示唆に富む意見交換を行うことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度における研究の達成度については、以下の理由から、おおむね計画通り進捗していると考えられる。 第1に、関連する文献レビューについては、対象とする研究領域が非常に広範にわたるため、研究領域を全体的に網羅できていないものの、国際化プロセス理論、ビジネス・ネットワーク理論、埋め込み理論などの領域については、おおむね文献レビューを行うことができたと考えている。なお、その文献レビューの内容の一部は、『経済貿易研究』(2013年近刊)に掲載することが確定している。また、本研究課題の理論的概観を行った研究論文を雑誌『世界経済評論』に掲載し、本研究課題と関連する共同研究を、書籍『コンテクストデザイン戦略』の1章として執筆する機会を得た。 第2に、文献レビューや国内外の研究者との意見交換を行いながら、次年度に本格的に実施するケーススタディの研究フレームワークの構築を進めることができたと考えている。今後も国内外の研究協力者の助言を得ながら、この研究フレームワークの精緻化を行いたいと考えているが、まずは助言を仰ぐことのできる段階に到達することができたと考えている。 第3に、次年度の本格的なケーススタディへの協力をして頂ける日系多国籍企業が複数確定できた点である。具体的には、総合商社2社、電機1社、その他製造1社、外食1社である。また、地域的にも、それらの日系多国籍企業における、特に東南アジア(ベトナム、タイ、シンガポール)や中国、韓国における海外事業の新規開発が活発であることもわかった。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度については、前年度に引き続き、最近の国内外の関連研究を渉猟し、本研究課題への関連を検討する。そして文献レビューを行い、論文として取りまとめる予定である。25年度は、前年度にそれほど重点を置けなかった、状況認知研究(特に正統的周辺参加やコミュニティ・オブ・プラクティスなどの個人や集団を分析レベルとした研究)、関係性をめぐる理論(リレーションシップ・マーケティング、ソーシャル・キャピタル、エコシステムなど)に焦点をあてて、レビューを行う計画である。 そして、前年度にほぼ構築した研究フレームワークについても、研究協力者のフィードバックを得ながら、精緻化をはかる。その後、複数の日系MNCに対する本格的なケーススタディを25年度に実施する予定である。海外子会社については、東南アジア(ベトナム、タイ、シンガポールなど)へのインタビューを実施する。随時、日系MNCの本社・海外子会社に対するインタビュー調査の取り纏め・分析を行う。研究用ケーススタディとして完成した場合には、学会報告や論文発表することも積極的に行っていく計画である。 なお、文献レビューやパイロット・スタディの結果、海外子会社を設立して間もない企業に焦点をあて、そうした企業がいかに現地コミュニティとの関係構築を図っているのかを観察することが有意義であることが示唆された。そのため、協力可能な多国籍企業を今後も探索することとしたい。 3カ年計画の最終年度である平成26年度には、複数の日系MNCにおける本格的なケーススタディの分析に重点をおき、日系MNCに対する理論的・実践的なインプリケーションを導出をめざす。そして、特に海外での学会発表を念頭におき、国際的な研究発信を積極的に行うことを計画している。もちろん、国内の学会や学術雑誌に対しても、積極的に投稿を行うこととしたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度の研究費の使用計画については、以下のとおりである。第1に、関連する文献レビューを行うため、学術雑誌や書籍の購入が必要となる。これについては、20万円前後の物品費やその他項目の使用を計画している。 第2に、日系MNCに対するケーススタディを本格化させる。日系MNCの海外子会社(ベトナム、タイ、シンガポールなど)における調査を8~9月と2~3月に予定しており、およそ40万円(20万円×2)の旅費が見込まれる。 第3に、最新の関連研究の渉猟、および海外研究協力者との研究打ち合わせのため、AIB(Academy of International Business)の国際大会(イスタンブール;7月)に参加する予定である。AIBは国際ビジネス最大の国際学会であり、世界各国から気鋭の研究者が集結する研究コミュニティの1つといえる。したがって、AIBでは、本研究課題に関連する最新研究を渉猟できると同時に、共通の関心を有する研究者との意見交換を予定している。この参加によって、約25万円の旅費を使用する計画である。 第4に、ケーススタディで行ったインタビューの取り纏め(テープ起こし)について、筆者のみで完遂できない場合、謝金を使用する計画である。これについては、10万前後を見込んでいる。 第5に、ソフトウエア、文房具、PCメディアなどの消耗品が研究の遂行上必要になることが考えられる。これについては、5万円前後の使用を計画している。
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