本研究は、企業が時間とコストの制約の下でイノベーションを達成するためのマネジメントに対して示唆を導出することを目的としてきた。そして、分析においては探索という概念に着目し、既存知識とは異なる分野にまで探索の範囲を拡大してイノベーションを達成するためには、組織にどのような仕組みが必要かを調査してきた。 前年度までは、新規参入の事例が多数観察される再生医療に焦点をあて、新規事業を開拓している企業の事例研究を蓄積してきた。これに対し、今年度は研究計画における最終年度であったため、前年度に引き続き再生医療業界の動向に関する一次データと二次データの収集・分析を行うことに加えて、研究のとりまとめを行った。取りまとめにおいては、蓄積してきた事例研究から、イノベーションの達成に向けて新たな領域へと探索の範囲を拡大するには、どのような要因が影響を与えているのかを明らかにした。具体的には、イノベーションの達成に向けて行われる探索の範囲を拡大するには、基礎研究機関との共同研究が契機となっていたことを明らかにした。調査を行った企業では、共同研究を通じて組織に新たにもたらされる知識が、新規事業のシーズを生み出し、シーズを事業化するために探索の範囲が拡大されていた。ただし、企業にもたらされる新たな知識は多様であるため、新規事業に適した知識を選択する能力が必要となる。シーズを事業化できた企業は、専門的な知識のある従業員と関連した既存知識を用いた事業経験を有していた。
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