研究課題/領域番号 |
24730345
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研究機関 | 金沢工業大学 |
研究代表者 |
東 俊之 金沢工業大学, 基礎教育部, 講師 (20465488)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 経営学 / 組織間コレボレーション / 創発的コラボレーション / 地域活性化 / 伝統産業 / NPO |
研究概要 |
本研究は、まちづくりを活動分野とするNPOと伝統産業とのコラボレーションによる地域活性化の可能性について言及するものである。1年目である本年度は、理論枠組みの構築と基礎的なインタビュー調査を行った。 まず理論研究に関して、組織間コラボレーション論の既存研究をレビューを中心に行った。その結果、創発概念、特に「ノットワーキング(knot-working)」(山住・エンゲストローム編, 2008)を援用することで、地域活性化における新しい組織間コラボレーションの枠組みを提示した。また、地域活性化論を検討し、組織論の枠組みだけでなく観光社会学や地域ブランド論の議論を援用することが有用であり、そこでは地域住民の意識変化を促すような「制度的企業家」の役割が不可欠であると発見した。こうした制度的企業家の活動により、コラボレーションを生み出す「場」が生成されると考える。 一方、伝統産業を核として地域活性化活動をしているNPOならびに伝統産業関係団体、その他関連する組織へのインタビュー調査、またフィールド調査を行った。具体的には、埼玉県川越市、石川県輪島市、宮城県石巻市などで調査を実施した。その結果、現状では伝統産業とNPOがコラボレーションして地域活性化に成功している事例は少なく、地域活性化を目指すNPOが地域資源としての伝統産業に気づいていないことが考えられた。そこで、何らかのコーディネーターの役割を果たす組織(あるいは個人)が介在することで、伝統産業とNPOの創発的なコラボレーションを促すことが必要であると考えられる。 以上のことから、伝統産業とNPOとのコラボレーションを進めるにあたり、協働のコーディネーターと場のクリエーターの両者(あるいは両方の役割を果たす者)が必要であると言及できる。次年度はこの点を深く掘り下げて、事例分析(インタビュー調査やアンケート調査)を実施したい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画のうち、理論的研究については組織間コラボレーション論、地域活性化論、地域ブランド論、NPO論などの文献レビューを中心に行い、創発的組織間コラボレーションの概念整理と理論的枠組みを仮説提示的に示すことができているので、概ね計画通りに進展していると考える。なお、「創発的組織間コラボレーション」の枠組みは、「日本マネジメント学会関西部会」にて学会発表済みである(曹佳潔氏と共同発表)。 そして実証的研究では、「NPOと地場産業・伝統産業の現状把握」を目的に、5か所程度のインタビュー調査ならびにフィールドワーク調査を実施することを計画していたが、ほぼ同数の調査を実施することができている。また、伝統産業関連団体への調査を行い、伝統産業の問題把握はある程度できた。しかし、当初予想していたほどに一定の成果をあげている事例が少なく、更なる調査が必要であると考える。また既存の伝統的地場産業論(伝統産業論)の文献研究を進めているが、多様なアプローチから研究がなされており、レビューに時間を要している。 一方で、当初の計画では予備調査の後にアンケートを実施し、伝統産業とまちづくりNPOとの意識の相違やコラボレーションにおける問題点などをマクロ的に洗い出す予定であったが、現状はアンケート調査の項目を検討している段階であり、停滞している。理由としては、①伝統産業とNPOとのコレボレーションの成功事例が少なく、意義のあるアンケート項目の検討に時間がかかってしまっていること、②インタビュー調査数が少なく、調査を増やす必要があること、③伝統産業論に関する先行研究のレビューが不十分であったこと、④コンタクトをとったNPOや関係団体からインタビュー調査の許可を得られなかったこと、などがあげられる。 次年度は、より多くの事例を収集するとともに、25年度の前半のうちにアンケートを実施したいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、インタビュー調査が十分にできなかったこと、アンケートが実施できなかったことなどから次年度に使用する予定の研究費が生じた。この研究費を活用し、次年度はフィールド調査に多くの時間を割く予定である。具体的には本年度調査できなかった、「奥会津編み組細工」(福島県三島町)、「播州そろばん」(兵庫県小野市)などの伝統産業産地の調査、ならびに地域活性化を担うまちづくりNPOの調査を続行する予定である。また十分な事例分析が可能になるよう、多くのNPOや伝統産業とコンタクトをとることを考えている。並行して、本年度の研究成果や新たに行うフィールド調査に基づいて、アンケート調査(調査数50程度)を実施する。 さらに、実証的研究をより発展させて実際にコレボレーションに至った経緯、協働時におけるリーダーシップ、組織間構造と組織間文化、組織間学習、また他主体との関係構築プロセスなどをインタビュー調査やアンケート調査を実施することで明らかにし、NPOと伝統産業とのコラボレーションの成功要因(または阻害要因)について言及する。 一方で、周辺諸領域の研究も行う。地域活性化論は横断的研究領域であり、様々な視点からの必要になってくるので、幅広い文献研究が不可欠である。そのための文献購入にも研究費を使用したいと考えている。また、文献研究だけでなく、具体的に地域住民や行政組織、学校組織など地域コミュニティに属する他の主体に対してインタビューを行うことにより、地域の抱える問題や意識変化を正確に把握する。さらに、NPOと企業、行政とNPOなど、マルチセクターによるコラボレーションに関しても文献研究、実証研究をする予定である。 そして最終的には、地域活性化におけるNPOと伝統産業のそれぞれの果たすべき役割について言及し、創発的組織間コラボレーションによる地域活性化モデルについて提言を行いたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
前述したように、インタビュー調査が十分にできなかったこと、アンケートが実施できなかったことなどから次年度に使用する予定の研究費が約40万円生じている。次年度は当初計画よりも多くの研究時間をフィールド調査に割く予定であるので、そのための、次年度の研究費の多くを調査旅費として使用する(約20万円)。また、調査対象に関連する資料の収集・購入費、文献複写費等にも充てたいと考えている。また調査内容を早急にまとめられるように、タブレット型PC端末の購入も検討している(約7万)。 さらにアンケート調査を予定しているので、アンケート調査に掛る通信費(切手代・はがき代)や封筒代が必要である(約1万円)。 また、昨年度よりも学会・研究会での発表回数を増やすことを考えているので、当該学会への参加費、旅費等にも使用する予定である(約10万円)。 他方、さらなる理論研究も必要であるので、組織間関係論・組織間コラボレーション論、NPO論、伝統産業論・地場産業論の関連図書、ならびに文献複写費などとしても使用したい(約2万円)。
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