本研究では、国際比較研究を通じて人事管理と組織構造の補完的関係のパターンとその補完的関係が近年どのように変容してきているのかを明らかにしようとした。具体的には、日本の自動車企業1社、およびフランスの自動車企業2社への調査を主として、複数企業に対してのヒアリング調査を実施した。調査の結果明らかになった点は、日欧の両企業ともに、自動車製品の複雑性の増大に伴って、製品開発組織における業務間調整の程度も増していくことへの対処が従前よりも重要な課題となっていたことである。とりわけ日本の自動車企業A社においては、製品開発における複雑性の増大化に対する組織的対応として、これまでの日本企業の調整様式の一つの特徴ともいえる現場レベルでの綿密な水平的調整の強化に加え、製品開発における複雑性を増大せしめる要因を分析し、製品全体を俯瞰的にとらえた視点から部品間の接合のあり方を構想し、複雑なパラメータを単純化する、あるいは扱うパラメータの数自体を減少させたうえで製品開発の効率化を目指す点が特徴的であった。すなわち、現場レベルでの水平的調整が事後的調整であるとすれば、複雑性の低減を事前に試みる事前的調整ということができる。本調査では、そうした事前的調整を専門に行う部署を設け、組織的に対処していた点が特徴的で、その組織で要請されるスキルはこれまで多くの日本企業で競争力を発揮してきた水平的調整能力とは異なることが示唆され、組織の変化に伴いそこで要請される人材育成等の人事管理もそれと補完的になるような変化が見られつつあることが明らかになった。その一方で、欧州自動車企業においては、日本企業と同様に製品開発における複雑性の事前処理の強化の試みがみられた一方、それに伴う人事管理の変化については顕著な変化を観察できなかったために、日欧でなぜこのような差異が生じるのかといった点について更なる調査、分析が求められる。
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