本研究は、企業の経営陣によって定められた経営戦略を、どのように組織的に実行していくのか、また、組織の戦略は日々の組織活動を通じてどのように生み出されていくのかという戦略実践について、実証的に調査研究することを目的とした。とりわけ、組織内で取り交わされる組織成員間の「語り」に焦点を当てることで、管理者は語りを通じてどのようにして組織成員に企業の戦略を具体的に実践させていくのか、あるいは、組織成員の日々の組織活動における語りを通じて、どのように組織の戦略が創発していくのかということを明らかにした。 具体的には、管理者および組織成員間の語りを通じた「意味形成」に焦点を当てることで、組織的な意味の流布プロセスを通じた戦略の実行あるいは転換について実証的に研究を進めた。そこで明らかにしたのは、管理者や組織成員が新たな戦略の形成や実行に関わる共通的な意味をつくり出す際に、自分たちの日々の組織活動で自明視されている価値観(管理者側の価値観、現場側の価値観など)に沿って新たな戦略の形成や実行を進めたのでは、ほとんどうまくいかないということである。つまり、新たな戦略の形成や実行が組織的な納得をもって進められる必要があるということである。日々の組織活動に埋め込まれたそれぞれの側の価値観(=意味)を認識したうえで、新たな戦略がそのようなそれぞれの側にどう位置づけられるかをうまく理解させること(それぞれの側が新たな意味形成をすること)こそが必要であり、それを進展させるのが、本研究で注目した組織成員間の「語り」を通じてなのである。
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