本研究の目的は、流通における中小小売商業者の存在意義を明らかにするために理論的・実証的研究を行うことである。その背景には、社会におけるインターネット販売の浸透や、中心市街地における「フードデザート」の発生、あるいは地域商業の衰退による住民の生活インフラや地域コミュニティの崩壊、といった流通を取り巻く社会的コンテクストの変容が挙げられる。この変化により、流通の中心的担い手である商業者のありようはさまざまな形に変化している。換言すれば、社会的なコンテクストの変化を受けて商業組織の内部編成が大きく変容しつつある。 こうした中で、本研究ではとりわけ中小小売商業者に注目する。その理由は、流通を取り巻く社会的コンテクストの変化の影響は、中小小売商業者においてもっとも顕著に表れると考えられるからである。従来の商業・流通研究においては、中小小売商業者は規模の大小によって捉えられてきたが、地域や流通全体を捉えるためには、規模以外の特質をより詳細に把握することが重要であると思われる。 以上の問題意識に基づいて、本年度は、これまでに行ってきた文献調査や定性的調査の知見を用いた定量的分析を行い、その成果を国内外に発信した。定量的分析は、商業統計を用いたマクロレベルの分析と、小売店の従業員と顧客に対する質問票調査から得られたデータを用いてミクロレベルの分析を行った。前者の分析からは、日本の零細小売商業者は依然として家族従業者に支えられていること、後者の分析からは、中規模小売商業者は販売価格において競争優位を持つこと、また、店頭従業員の能力は個人の資質だけではなく所属する店舗の立地や競争状況も間接的な影響を与えていることが明らかになった。
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