研究課題
本研究の目的は,日本企業へのフィールド・リサーチを通じて,日本企業における経済性評価の変容と独自性,および,資本予算プロセス全体の具体的特徴を明らかにしようとするものであった。当年度は,これまでのフィールド・リサーチから得られた知見に基づいて,予測期間を限定した正味現在価値法という,通常の正味現在価値法とは異なる運用方法について検討を行った。この検討結果は,論文としてまとめて『産業経理』誌上において公表する機会を得ることができた。この検討結果を要約すると,次の4点にまとめることができる。第1に,日本企業の実務において,将来キャッシュ・フローの予測期間を限定して正味現在価値を算定している事例がみられるということである。このような事例に関する詳細な報告は,これまでになされてこなかったものである。第2に,このような独自の運用方法に拠っていても,各企業は,通常の正味現在価値法を実践していると認識しているということである。第3に,しかしながら,予測期間を限定した正味現在価値法は,通常の正味現在価値法とは異なる特徴を有しており,本質的には,割引回収期間法と同様の特徴を有する投資経済性評価となるということである。第4に,他方で,相互排他的な案件に関する優劣評価の順位付けを行う場合について詳細に検討すると,予測期間を限定した正味現在価値法は,割引回収期間法とも,通常の正味現在価値法とも,異なる結果を導く場合があるということである。本研究の学術上の意義は,わが国の企業が,ごくノーマルな正味現在価値法と認識して実践していた経済性評価の方法が,実は,本質的には正味現在価値法と異なる特徴を有するものであることを明らかにした点にある。また,現実の企業の実務において,正味現在価値法を使用する際にも,留意すべき示唆を与えているものと考えられる。
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産業経理
巻: Vol.74, No.2 ページ: 117-129