本研究の目的は、企業と債権者との間で結ばれる契約(以下、「負債契約」)において、会計情報がどのように利用されているのかを実証研究により明らかにすることである。具体的に、本研究では以下の3点に焦点を当てた。すなわち、(1)負債契約において会計数値がどの程度利用されているのか、(2)債権者はどのように負債契約を工夫して設定しているか、(3)負債契約における会計情報の利用は、経営者に利益を調整する動機を与えるか否か、である。 研究期間の初年度(平成24年度)には、上記(1)に焦点を合わせ、日本の上場企業のうち、2005年度に銀行ローンにおける負債契約の具体的内容を開示した企業について、負債契約の内容を調査した。その結果、会計情報が高い頻度で利用されていることが明らかになった。 研究機関の最終年度(平成25年度)には、前年度に引き続き、負債契約の実態を多年度に渡り調査した。2004年3月期から2008年3月期の計5年間を調査した結果、銀行ローンの負債契約における会計情報の利用は一貫して増加傾向にあり、特に2007年からの増加が著しいことが分かった。 これらの調査結果を踏まえ、平成25年度には上記(2)にも焦点を当て、銀行ローンの負債契約に約定されている利益維持条項について、その制限の厳しさ(契約時における条項記載の閾値と実際の利益水準との差)の決定要因を探る実証分析を行った。分析の結果、財務制限条項の厳しさの設定は、借手企業のデフォルト・リスクを捉える過去の業績指標だけでなく、将来の業績改善見込みとも関連していることが明らかになった。これを踏まえ、本研究では上記(3)にも焦点を当て、負債契約と利益調整との関係を考察した。 本研究で得られた結果は、会計情報が企業と債権者の利害調整を行っていることを示すものであり、会計研究上、意義深いものであると考えられる。
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