研究課題/領域番号 |
24730386
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 滋賀大学 |
研究代表者 |
笠井 直樹 滋賀大学, 経済学部, 准教授 (80584143)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 財務諸表監査 / 監査人の独立性 / 利益調整 / 監査報酬 / 監査人の継続監査年数 |
研究概要 |
本研究の目的は,監査人の独立性と経営者による利益調整行動との関係について実証分析を行うことである。特に,監査人の独立性に影響を及ぼす要因として,近年国内外で頻発した会計不祥事との関連から注目を集めている監査報酬,監査人の継続監査年数,大手監査法人の市場集中度の3つの要因に焦点をあてて分析を行う。また,経営者が利益調整を行う手法のうち会計的裁量行動,実体的裁量行動,損益項目の分類変更の3つに焦点を絞り分析を行う。 本年度は主に実証分析に必要なデータ・ベースの構築および関連する文献のレビューを中心に行った。まず,データ・ベースの構築および関連する文献のレビューに関してであるが,監査人の特性を捉える変数を構築するためのデータについては,これまでの自身の研究プロセスである程度確保できているものの,一部不足しているデータがあるため,これらのデータを有価証券報告書より手作業で収集した。また,本研究では,経営者による利益調整行動を測定する指標として3つの指標を用いるので,まず,これらの指標を導出するために推定計算を行わなければならない。そこで,先行研究に基づき,これら3つの指標を計算した。しかしながら,これら3つの指標のうち,損益項目の分類変更の指標に関しては,まだ先行研究による蓄積が十分に進んでいるとはいえないので,推定計算に用いる変数の定義に関して慎重に検討を行っているところである。 他にも,現時点で実行可能な分析を随時進めるとともに,関連する分析も同時に進め,国内外で開催された学会および研究セミナーなどにおいて研究成果の一部を公表した。具体的には,わが国固有の監査報酬に関する規制が監査報酬と財務諸表監査の品質に及ぼす影響や外部監査である財務諸表監査とコーポレート・ガバナンスとの関係について検証を行った結果を報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでのところ,初年度の目標であるデータ・ベースの構築と関連する文献のレビューについては概ねその目的を達したといえる。今後はこれらのデータを用い,選別した変数を統計分析にかける作業を進めていくことになる。 また,本研究で用いる経営者による利益調整行動を測定する指標の1つである会計的裁量行動についてはすでに分析を進めており,残りの実体的裁量行動および損益項目の分類変更についても,推定計算に必要なデータの選定はすでに完了しており,随時分析を進めているところである。さらに,関連する研究も同時に進めており,その成果はすでに論文および学会報告などを通じて公表している。 しかしながら,複数の利益調整の手法を監査人がどのように識別し,それを抑制するのか,あるいは抑制しない(識別できない)のかといったことを明らかにするには,先行研究で提示されてきたのとは異なるより複雑な洞察が必要であり,この点は今後より慎重に検討していかなければならない。
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今後の研究の推進方策 |
本年度において構築したデータ・ベースおよびすでに計算済みの指標を用いて,分析を進めていくことが次年度の主たる目標であるが,こうした主たる目的を達成するためには,本研究で設定している監査人の独立性に関する指標や経営者による利益調整行動を代理する指標に影響を及ぼすと想定される他の要因について検討することも必要である。 本研究では,監査人の独立性を代理する指標の1つとして監査報酬を設定しているが,そもそもわが国では監査報酬に影響を及ぼす固有の規定が存在し,わが国において監査報酬と財務諸表監査の品質との関係を検証するにはこの規定の存在を考慮しなければならない。したがって,当該規定の影響をコントロールするために分析モデルの精緻化を進める必要がある。 さらに,これまでは主に監査人側の要因に着目して分析を進めてきたが,財務諸表監査の品質に影響を及ぼす企業側の要因も重要である。特に,わが国では長らく外部監査よりも銀行によるモニタリングが機能していたという事情もあり,メインバンクが株式所有および融資を通じて外部監査に代わり企業を規律付けている可能性が考えられる。そこで,こうしたわが国企業固有の要因をこれまでの分析に組み込む必要がある。 以上のようにわが国固有の要因をコントロールすることで,分析を精緻化し,より説得力のある結果が提示できる可能性がある。
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次年度の研究費の使用計画 |
次年度は,主に研究成果の公表に重点を置き,国際学会における研究報告や論文の投稿を中心に行う。これ以外にも最新の研究動向の把握や自身の研究をブラッシュアップするためにも国内外の学会および研究会などに参加する。こうした国際学会における研究報告や国内外の学会および研究会などに参加する費用を旅費として使用する予定である。 また,前年度から引き続きデータ分析を進めるとともに分析モデルの精緻化も進める予定であるので,物品費として分析に使用する統計ソフトウェアのアップデート費用や関連する文献の購入などにあてる予定である。他にも,国際学会および海外ジャーナルへの投稿のために論文を英文校正に出す費用が必要である。
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