研究課題
本研究の目的は,監査人の独立性と経営者による利益調整行動との関係について実証分析を行うことである。特に,監査人の独立性に影響を及ぼす要因として,近年国内外で頻発した会計不祥事との関連から注目を集めている監査報酬,監査人の継続監査年数,大手監査法人の市場集中度の3つの要因に焦点をあて,これらの要因と複数の利益調整手法との関係について分析を実施した。昨年度までの段階では,主に会計的・実体的裁量行動に着目し,当該指標と監査人の独立性に影響を及ぼす複数の要因との関係について分析を進めてきた。また,研究を進めていくにしたがい,わが国固有の要因をコントロールすることの必要性を痛感した。例えば,監査報酬に関して,かつてわが国では標準監査報酬規定といういわば監査報酬額決定の際の基準となる規定が存在し,当該規定の存在がわが国の監査報酬額に及ぼしていた影響を考慮する必要性がある。また,金融機関によるモニタリングという外部監査を代替するシステムが存在していたことも分析の際に考慮しなければならない重要な点である。さらに,本年度では,内部統制監査制度の導入の影響も考慮したうえで分析を行った。本年度は,これまでの研究で進めてきた要因に加えて,内部統制監査制度導入による影響に関する分析も進めつつ,主に実体的裁量行動や損益項目の分類変更といった利益調整手法と監査人の独立性に影響を及ぼす要因との関係について検証を行ってきた。例えば,実体的裁量行動については会計的裁量行動と同様に,監査報酬額の多寡と正の関係にあるが,内部統制監査制度導入前後で比較した際,当該制度導入後の方が監査報酬との関連性が強くなる傾向にあることが明らかとなった。本研究で取り上げた監査人側の要因のうち,監査報酬や継続監査年数は現行の規制の対象となっているので,規制の実質的な効果を問う議論への1つの証拠を提示することができる。
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Working Paper Series, Shiga University
巻: 216 ページ: 1-53
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