研究課題/領域番号 |
24730390
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 大分大学 |
研究代表者 |
越智 学 大分大学, 経済学部, 講師 (90613844)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 継続企業 / 会計保守主義 / 利益調整 / 監査労力 |
研究概要 |
研究初年度である平成24年度は,研究に必要な設備備品の購入など,研究環境を整備するとともに,以下の研究を実施した。 交付申請書に記載の通り,継続企業問題と会計保守主義の関連性(論点1)については研究を前倒しで完了させ,継続企業問題の認識が保守主義の強化を通して財務諸表数値にも影響を与えている可能性を示唆する証拠を得た。研究の成果は,「継続企業情報の開示企業における会計行動と保守主義の関連性」と題し,書籍の一章として掲載した。 継続企業問題と利益調整の関連性(論点2)については,文献のレビューとリサーチ・デザインの構築を継続し,ワーキングペーパーを作成するとともに,「継続企業監査が財務諸表の質に与える影響」と題して日本会計研究学会第71回大会の自由論題報告で研究報告を行った。本研究では,継続企業問題が顕在化した企業において,過去の純資産が過大に計上されている傾向にあること,および継続企業問題が認識された時点で当該過大計上が解消される傾向にあることを実証的に明らかにした。 論点2の研究報告後,論点1および論点2を補完し,発展させる研究として継続企業問題と監査人の対応に関する研究に着手した。本研究では,継続企業問題に対して監査人が実際に追加的な監査労力を投入しているか否かを検討している。本研究の関心である監査労力の代理変数は監査チームの人数であるため,文献のレビューおよびリサーチ・デザインの構築と平行して有価証券報告書からデータを収集し,小規模サンプルによるパイロットテストを実施した。その結果,継続企業問題に対し,大規模監査事務所は監査補助者等を追加するが,中小監査事務所ではそのような監査労力の追加は行われないことを示唆する証拠を得た。本研究の結果は,研究代表者が参加していたプロジェクトの研究会において報告を行い,現在,サンプルの拡大を含めたデータの整理を継続している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度は,交付申請書に記載の研究実施計画に従い,利益調整に関する研究(論点2)について学会報告を行い,監査人の対応に関する研究に着手した。その結果,現段階において,継続企業問題が顕在化した企業では,当該状況を開示するだけではなく,(1) 会計保守主義の強化や過大な純資産の解消を図るなど,保守的な会計処理を通じて財務数値の属性を変化させていること,(2) 大規模監査事務所のみが継続企業問題に対して追加的な監査労力を投入していることが実証的に明らかとなっている。これらは,本研究課題の「研究の目的」において挙げた3つの会計属性のうち,保守主義と利益調整に関する証拠であり,経営者と監査人による継続企業問題の検討が,産出される財務情報の質そのものに影響を与える可能性を示唆している。 以上から,本研究課題はおおむね順調に進展しているものと考えられる。ただし,論点2については,学会や研究会での報告から得られたコメントを踏まえ,データおよびリサーチデザインの見直しを図っており,学術雑誌への投稿までは至っていない。社会への発信という点については進捗がやや遅れていることから,順次研究をまとめていく必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の最終年度である平成25年度は,交付申請書に記載した研究実施計画に従い,継続企業問題と監査人の対応に関する研究を継続するとともに,価値関連性に関する研究に着手する。ただし,上記の通り利益調整に関する研究は,社会への発信という点で進捗がやや遅れていることから,学術雑誌へ投稿可能な状態となるよう研究を優先して進めるものとする。これにより,平成25年度に予定している研究の遂行に遅れが生じる可能性があるため,規模にかかわらず積極的に研究報告の機会を設けるなど,定期的に研究の見直しを図ることで対応する。
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次年度の研究費の使用計画 |
本研究課題に関して,次年度使用額が350,558円となっているが,これは監査法人関係のデータを外部から購入する必要が新たに生じたため,設備備品への支出を抑制したこと,および学会や研究会に参加するための旅費支出が予定よりも少なかったことが主な理由である。平成25年度は,申請した研究経費に加え,監査法人関係データの購入を予定していること,および研究会等への参加に要する旅費が増加すると予想されることから,次年度使用額はこれらの追加的支出に充てることとする。
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