研究課題/領域番号 |
24730390
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研究機関 | 大分大学 |
研究代表者 |
越智 学 大分大学, 経済学部, 講師 (90613844)
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キーワード | 継続企業 / 会計情報の質 / 会計保守主義 / 利益調整 / 監査労力 / 価値関連性 |
研究概要 |
補助事業期間の延長に伴い,2年目となる平成25年度は,継続企業問題と監査人の対応に関する研究を前年度から継続して実施した。具体的には,継続企業問題に対応するため,監査人が監査補助者や監査時間を追加的に投入しているか否かを,外部公開データによって実証的に分析している。 はじめに,監査事務所データの外部購入と有価証券報告書等からの手作業による情報収集により,実証分析に必要となるデータセットを拡張整備した。本データセットによる分析の結果,大手監査事務所は中小監査事務所よりも監査業務に投入する人員が多く,継続企業問題に対して監査補助者を増員する一方,中小監査事務所では補助者の増員による対応は行われていないことを示唆する証拠を得た。これは,平成24年度に実施した小規模サンプルによるパイロットテストの結果と整合している。さらに,本年度における追加的な発見事項として,監査報酬と監査チーム規模の関連性から,中小監査事務所では補助者の増員よりも監査時間の増加による対応が図られている可能性があること,またそれと同時にリスクプレミアムをクライアントに課している可能性があることも明らかとなった。 本研究の意義は,監査品質の観点から継続企業情報の開示および監査制度の影響を実証的に解明したことにある。すなわち,継続企業問題に監査人が関与することは,監査品質の維持を通じて間接的に会計情報の品質に影響を与えていることが示唆される。 また,本年度の研究実施計画として予定していた継続企業問題と会計情報の価値関連性に関する研究については,上記研究と平行して先行研究の収集とレビューまでを実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究初年度である平成24年度において,学会報告および公認会計士へのヒアリングを実施した結果,同年に実施した実証分析を精緻化するためには担当監査事務所や監査報酬,監査チームの人数などの情報をより詳細に収集する必要性が明らかとなった。そのため,本年度にかけて,外部からデータを購入するとともに,関連するデータを有価証券報告書等から手作業で収集することでデータセットを拡張整備したが,想定していたよりも時間がかかり,実施した研究の社会公表という点で当初の研究実施計画から遅延が生じている。しかし,予定していた研究は価値関連性に関する研究を除き,検証結果を得る段階まで進んでいる。延長された補助事業期間である平成26年度を利用してこれらの分析を精緻化し,論文として投稿しうる状態にまとめあげることで,当初の研究計画は十分に達成できると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度における研究の推進方策は以下の通りである。まず,本年度に研究を実施したが,学会報告に間に合わなかった継続企業問題と監査人の対応に関する研究については,「監査業務における労働投入と継続企業問題」と題し,日本会計研究学会第73回大会の自由論大報告にて発表予定である。また,すでに実証分析を実施した2つの研究は,検証結果が得られてはいるものの,依然として分析結果の頑健性が十分に保たれていない。そのため,最後の価値関連性に関する研究に先立ち,これらの分析を精緻化し,学術雑誌への投稿が可能な状態となるように優先的に論文の執筆を進める。その過程において,研究代表者が参加する研究会等で報告する機会があれば積極的に活用し,外部からの指摘やコメントを得ることで定期的に研究の見直しを図るものとする。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度は,継続企業問題と監査人の対応に関する研究を継続した。しかし,データセットの拡張整備に想定よりも時間がかり,既着手の研究に関する分析の精緻化を含めて遅延が生じている。補助事業期間の延長により研究課題の達成を予定しているが,そのためには平成26年度における日経NEEDSの利用について,契約の一部を科研費で継続する必要があることから次年度使用額が生じている。 これにより,物品費の未使用額の大部分は,上記データベースの契約費用に充てることとする。また,旅費の未使用額については,本年度に実施した研究を含め,学会や研究会での報告のため,平成26年度も旅費として使用する予定である。
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