1.最終年度 平成26年度は,「継続企業問題と監査人の対応」および「継続企業問題と会計情報の価値関連性」に関する研究を実施した。前者については,研究成果をワーキングペーパーとして取りまとめ,日本会計研究学会第73回大会にて成果報告を行った。後者については,継続企業問題の存在が会計情報,とりわけ貸借対照表情報の役割にどのような影響を与えるかを実証的に分析した。具体的には,傾向スコアマッチングの手法により,継続企業問題の有無によって株式時価総額と純資産簿価および利益数値の関連性が異なるか否かを検証した。分析の結果,継続企業情報の開示企業は,純資産簿価にかかる偏回帰係数が小さく,自由度調整済決定係数も低いことが明らかとなった。また,純資産簿価を純金融資産と純営業資産に分解した追加分析では,純営業資産に対するウェイトが低いことも明らかとなった。これは,継続企業問題が存在する企業では,継続企業を前提とした会計情報の役割が限定的であることを示唆しており,投資家の意思決定における継続企業情報の有用性を支持する証拠となる。
2.研究期間全体 本研究課題では,経営者および監査人が継続企業問題の存在を評価し,継続企業情報を開示することの意義を,会計情報の質という観点から多面的に分析した。主たる研究成果として,第1に,継続企業問題が識別された場合,利益調整が抑制され,より保守的な会計処理が選択されることを明らかにした。これは,財務諸表が財務困窮の実態を適切に反映し,重要な虚偽表示の可能性が低下することを示唆する。第2に,上述の通り,継続企業情報が有用な情報として機能していることも明らかとなった。しかし,監査人の対応という観点からは,中小監査事務所において十分な監査資源が投入されていない可能性が示唆されており,こうした対応の違いが上記の結果にどのような影響をもたらすかは,別途検証する余地がある。
|