研究課題/領域番号 |
24730394
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研究機関 | 下関市立大学 |
研究代表者 |
足立 俊輔 下関市立大学, 経済学部, 講師 (30615117)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 病院原価計算 / 医療経営 / 保険者機能 / TDABC / RVU / ABC / UVA法 / フランス管理会計 |
研究概要 |
本研究の目的は、病院原価計算の利用目的を保険者機能との関係から整理し、時間概念に着目して原価計算の日仏米の国際比較の観点から病院原価計算の適応可能性を検証することである。言い換えれば、保険者機能が強化される前後で医療制度の仕組みが変化し、それに伴って病院原価計算の利用目的が変化する際に、配賦基準としての時間概念の役割の有用性を分析することを目的としている。 本研究は、病院原価計算の利用目的を保険者機能の強化との関連で分析し、さらに原価計算に係る導入コストと運用コスト側面を「時間」に着目することで、原価計算の管理可能性・実行可能性にまで言及する点に、学術的な特色・独創的な点がある。そこで掲げる課題は、①保険者機能と病院原価計算の利用目的の関係についての研究、②日仏米の時間ベースの原価計算を対象とした国際比較研究である。 本研究が対象とする原価計算は、時間主導型活動基準原価計算(TDABC)と相対価値尺度法(RVU法)の2つの病院原価計算とフランスの付加価値単位法(UVA法)である。こうした原価計算に係る導入コストと運用コスト側面を「時間」に着目する動向を、保険者機能の強化を背景とする病院原価計算の視点から分析することは、病院原価計算研究のほか、TDABCの適応可能性を再考する一手段となりうる。 こうした研究を行うにあたり、各国の医療保険制度および医療保険制度改革についての動向を詳細に把握する作業と並行しながら、米国病院経営・病院原価計算に関する文献収集を行う。また、筆者の研究課題は原価計算・管理会計の分野であるため、具体的な保険者機能については、専門家のアドバイスを国内外問わず定期的に受ける必要がある。そこで本研究では、末盛泰彦氏(元国立病院機構九州医療センター麻酔科医)や下関市中央病院を、研究協力者としてあげている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、米国の保険者機能の強化を背景とした病院原価計算の発展を、計算原理の精緻化の側面と計算合理性の側面から整理することで、医療の質とコストのバランスを考慮する価値重視の病院経営を支援する時間主導型の病院原価計算の有用性について明らかにすることができた。 現在までの研究成果は、①単著「時間ベースの原価計算の適応可能性 ―病院原価計算の分析を中心に―」九州経済学会年報第50集投稿(査読付き)2012年12月、②単著『米国における病院原価計算の発展と価値重視の病院経営』博士論文(九州大学大学院)2012年2月で発表している。とりわけ、博士論文において、TDABCをマイケル・ポーターの価値連鎖(Value Chain)との繋がりから論文を執筆することができたことは、本研究における大きな前進である。 また、原価管理と品質管理のバランスを目的として、各利害関係者の対立関係を解消する「価値重視の病院経営」において病院原価計算は、コスト面でのプロセス変化の影響を提示することにより、医療提供者と病院経営者が情報共有することが可能となる。つまり、価値重視の病院経営に貢献する病院原価計算は、利害関係者に「共通情報基盤」を提供することを利用目的として考える。こうした利用目的で病院原価計算を用いることは、経営管理志向ではなく「価値重視志向」と捉えることができる。そして、原価情報を価値重視の病院経営に用いるにあたっては、費用対効果の観点から時間を配賦基準とした原価計算の有用性が高くなり、TDABCやRVU法が用いられることになる。こうした米国の病院原価計算の発展と価値重視の病院経営の関係を明らかにした。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、①保険者機能と病院原価計算の利用目的の関係についての研究、②日仏米の時間ベースの原価計算を対象とした国際比較研究について、並行して取り組んでいる。そこで得られた結論しては、時間要素を重視した原価計算は、病院に比較的馴染みやすいということである。例えば、クリティカルパスなどを導入し、パスにかかる時間を集計する際に合わせてコスト計算が可能となる点でいえば、TDABCは病院に受入れられやすい原価計算手法といえる。これはRVU法についても同様である。ただし、RVU法に関していえば、日本ではRVUを設定するノウハウもデータ蓄積もされていない現状から実行可能性が低い。そのためにも、RVU法やTDABCについて実際データを用いた研究を踏まえる必要がある。 こうした保険者機能が強化されるなかでの病院原価計算の利用目的について、日本に当てはめた場合、文献収集だけではなく、国内を中心に実際の病院訪問調査を行う必要がある。そこで現在、下関市中央病院などの病院を研究対象として、わが国における医療保険制度に対する保険者機能のあり方と原価管理の関係性を、トップ・ミドル・ロワーのそれぞれの立場から研究調査(主にヒアリング調査)を行う予定である。こうしたヒアリング調査は、医療経営を研究テーマとする筆者にとって貴重な機会であり、また、医療現場の情報は、これまでの筆者の研究成果を裏付ける貴重な証言の一部となる。 また、クリティカルパスに関しては、昨年度に医療マネジメント学会に参加することで、クリティカルパスの現状と課題を整理しているので、今年度はクリティカルパスと時間主導型の病院原価計算の関係をまとめることができると思われる。なお、昨年度は日本医療マネジメント学会(第15回熊本支部学術集会)と日本医療マネジメント学会(第11回 佐賀県支部学術集会)にて情報収集を行っている。
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次年度の研究費の使用計画 |
医療経営に関する原価データ資料は研究にとって必要不可欠である。そのため、医療経営に関する学会(医療経営学会、医療マネジメント学会など)に精力的に参加し、報告資料および情報交換を行う。そのための研究旅費として年4回×@30千円=120千円を計上している。なお、医療経営に関する学会では、クリティカルパスを中心に研究調査を進める予定である。ヒアリング調査対象としては、下関市中央病院、九州医療センターが該当する。 また、末盛泰彦氏(元九州医療センター麻酔科医)、丸田起大准教授(九州大学大学院)と共同で、九州医療センターの手術部門・看護部門のバランスト・スコアカードの導入研究を行っている。末盛氏がもつ医療現場の情報は、これまでの筆者の研究成果を裏付ける貴重な証言の一部となるため、今年度も積極的に情報交換を進める予定である。なお、末盛氏はシンガポールの病院にて麻酔科医として勤務を予定しており、その関係でシンガポールと日本とのBSCの比較を行うことになった。そのため、BSC研究については日本・シンガポールの関係で研究を進めていく。 フランス管理会計の側面からは、フランス管理会計の研究者である大下丈平教授(九州大学大学院)の意見を仰ぐことで、フランスの付加価値単位法(UVA法)と時間概念との関係を整理することにしたい。 消耗品としては、レーザープリンタのトナーやパソコン周辺機器、文具(ファイルノート、ファイルホルダー等)、印刷・製本費を計上している。 研究成果は、第39回日本管理会計学会九州部会(4月20日、於:九州産業大学)にて報告を行う(論題「米国病院原価計算の発展と価値重視の病院経営」)。
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