本研究課題のうち,今年度は,主として,経営能力の一つとして,マネジメント・コントロールにおける日常的な活動がどのように戦略に貢献しているのかについて,経験的データの検討を進めることを通じて,体系的な整理を行い,知見をまとめることを行った。その結果,第一に,予算管理の現代的意義として,戦略経営における予算管理の運用方法と役立ちが明らかになった。特に,変化の激しい競争環境下における固定的に維持される予算目標が戦略的行動(戦略変化,イノベーション,組織能力の活用・構築)の文脈として構造を提供し,そのなかで柔軟性とコントロールや,現行の競争優位の活用と将来の競争優位の構築といった両立の難しい課題を克服していることを明らかにした。そして,このことは,戦略内容アプローチのアウトサイド・インの視点およびインサイド・アウトの視点,そして戦略プロセスアプローチといったさまざまな戦略概念に対して予算管理が貢献していることを意味し,戦略経営に対する予算管理の役割について包括的な理解を提供することができたといえる。次に,環境変化への迅速な対応においては,最前線で働く下位管理者の役割が重要になると考えられるが,その下位管理者を管理会計主体とする下位管理者支援型管理会計について検討し,管理会計リテラシーと管理会計技法の相互作用の重要性を経験的データに基づいて指摘,検討することができた。 これらのほかに,事業承継のための仕組みづくりとして管理会計を捉え,その一端を理解するために,海外子会社の経営管理(日本的グローバル管理会計)に関するアンケート調査を行った。その簡易分析の結果,内部統制システムが業績に直接的に影響するのに対し,管理会計システムは現地経営者の主体性を介して業績向上を導くことが明らかになった。
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