本研究の目的は,組織の誕生から衰退にいたるライフサイクルにおけるマネジメント・コントロールの変遷を明らかにすることであった。この目的に取り組むため,企業訪問調査,質問票調査等を行った結果,2つのインプリケーションを提示した。 第1に,組織のライフサイクルを移行する過程においてマネジメント・コントロールや管理会計の利用がどのように変遷していくのかを明らかにし,1つのモデルを提示した。まず成長期は,利用する管理会計手法が少ないだけでなく,公式的なマネジメント・コントロールの利用度も低い。つぎに成熟期には,利益計画手法の利用度,業績管理の活用度の高さに加えて,ABC/ABMの利用度が高いことも確認されるなど,利用する管理会計手法を増加させるとともに,売上高成長率の鈍化に対応すべくマネジメント・コントロールも積極的に展開される。つづく再生期に入ると,再び売上高成長率が上昇するが,利用する管理会計手法は変化させず ,相対的に組織やマネジャーの負荷が大きいマネジメント・コントロールの利用を低下させ,相対的に負荷の少ないマネジメント・コントロールに依存するようになる,というモデルである。 第2に,組織のライフサイクルを移行する過程においてマネジメント・コントロールや管理会計が効果を発揮するために必要な要素として管理会計能力(管理会計システムを効果的に活用するための組織能力)があることを示した。すなわち,組織が望ましい方向に成長していくためには,効果的に管理会計システムを利用することが求められ,そのためには吸収能力や経験学習能力とよばれるような組織能力を保持していることが重要であることを示した。
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