本研究課題では中小企業における管理会計実務に関する調査・研究を進めてきた。 これまで研究代表者は、熊本県内や福岡市内の中小企業を対象としたアンケート調査において得られた結果を元に,共分散構造分析を用いて、中小企業におけるマネジメント・コントロール・システム(以下、MCSと略記する)がその組織成員の心理的要因(動機付け)にどのように影響しているのかを分析したところ、従業員数が少ない企業では経営理念の浸透が重要である一方で、従業員数が30名程度以上の企業では経営理念に加えて、行動規範の制定や会計情報を組織内部でのコミュニケーション手段として用いることで組織成員の動機付けが高まることを明らかにした。 こうした結果を元に,本研究課題では,①中小企業経営者に対するインタビュー調査を実施し,その実務がどのように行われているのかについて調査を実施するとともに,②上記のアンケート調査で得られたデータをもとに,経営理念、行動規範、会計の3つのコントロール・レバーが組織成員にどの程度受容されているのかを企業規模によって比較したところ、経営理念については規模による差が見られなかったものの、行動規範や会計は従業員数が多い企業と少ない企業とでは受容度が異なるとの結果が得られた。 以上の結果から明らかなように,中小企業を対象とした管理会計研究においては中小企業においてMCSあるいは管理会計システムが機能すると考えられるが、それは規模(従業員数)によって異なることが示されている。すなわち、中小企業においても管理会計システムは有用であると同時に、企業規模によってその有用性が異なることを明らかにした。
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