研究課題/領域番号 |
24730410
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
高瀬 雅弘 弘前大学, 教育学部, 准教授 (20447113)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 地域社会学 / 戦後開拓 / コミュニティ / 世代 / ライフコース / 営農 / 家族 |
研究概要 |
本研究は、戦後日本社会における地域社会の変容を、戦後開拓地という、自然村とは異なる原理のもとに編成された地域のコミュニティに注目し、その形成の経緯や諸政策の影響、世代間継承によって生じる変化を分析することにより、社会変動が地域社会を生み出す過程と、地域社会が社会変動を生み出す過程という2つの次元から考察することを目的とする。平成24年度の研究実績は以下のとおりである。 1.先行研究の収集と検討:戦後開拓に関する諸政策や事例調査に基づく先行研究を網羅的に収集し、批判的に検討した。これまでに分厚く蓄積されてきた農村社会研究にみられるコミュニティの特徴と、戦後開拓地との共通点、ならびに相違点を整理し、本研究の課題としての世代間継承をめぐる問題とコミュニティの変容過程を定位した。 2.基本的資料の収集と整理:研究の前提となるマクロな社会変動を把握するために、以下のデータ・資料を収集した。(1)『国勢調査報告』(全国・都道府県別)などの統計資料、(2)開拓行政・一般農政に関する諸資料、(3)開拓地にみられる諸問題に関する単行本・新聞・雑誌記事 3.資料・データ収集調査:東京都・青森市・盛岡市において資料収集調査を実施した。(1)開拓地営農に関する統計資料、(2)開拓行政・法規に関する資料、(3)開拓地を対象に実施された調査報告資料、(4)戦後日本人の生活史に関する調査資料 4.生活史調査:青森県鰺ヶ沢町、岩手県滝沢村をフィールドに、戦後開拓地の「第一世代」、「第二世代」の人々を対象としたライフヒストリー・インタビューを実施した。 5.データ分析:収集した文書・文献資料の整理・分析を進めるとともに、ライフヒストリー・インタビューの書き起こしを行い、その内容を分析した。そこから明らかになるのは、開拓や営農といった、「第一世代」が確立した家業に対する、世代やジェンダーに基づく意識の差異である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度の研究計画に挙げた1.先行研究の収集と検討、2.基本的資料の収集と整理、3.資料・データ収集調査、4.生活史(ライフヒストリー・インタビュー)調査、の4つの項目は、いずれも予定通りに着手、進捗している。 このうち3.資料・データ収集調査については、入植開始当時の地方新聞を丹念に読み解くなかで、戦後開拓地という新たなコミュニティと、既存の周辺のコミュニティとの関係性、対立から協調へと至るプロセスという、当初の研究計画では想定していなかった新たな課題が明らかになった。今後紛争や対立が、いかなる形で解消されるに至ったのか(または解決に至らなかったのか)を、地方文書や聞き取りを通して明らかにする必要がある。 また4.生活史調査については、「第一世代」の人々の高齢化が進んでいることもあり、その体験を聞き取ることは喫緊の課題である。その点において本研究が収集したライフヒストリー・インタビューは、今後の研究において貴重な資料となりうるものである。加えて「第二世代」の人々への聞き取りを開始するなかで、単なる世代間の差異だけではなく、ジェンダーによる意識の差異というもうひとつの課題が明らかになった。平成24年度には着手できなかった、「第二世代」の男性への聞き取りを行うことによって、そうした課題がより明瞭に捉えられると考える。 以上のように、本研究の当初の目的についてはおおむね順調に達成されると考えられるが、同時に新たに取り組むべき課題が発見され、これらへの取り組みは、本研究のもつ学術的な意義の幅を、より広くするものと考える。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度以降は、引き続き以下のような形で研究を進める。 1.文献資料の収集と整理・分類:開拓地をめぐって生じた諸問題の位相について、量的な趨勢だけでなく、1950年代に数多く刊行された岩波新書などの出版物、ルポルタージュといった同時代的な資料、さらには開拓記念誌のような形で刊行された回顧的な資料といった質的資料の収集を行う。これらの資料に関しては、成立の経緯や地域・立地による違いに注意しながらカテゴリー分けを行い、そこから読み取れる戦後開拓地の諸条件の相違とその後のコミュニティの展開の関連パターンを類型化する形での整理・分類を試みる。 2.資料収集調査:中央官庁における公文書を中心とした文書資料を収集する。併せて地方行政による資料群の掘り起こしを行う。具体的には、青森県・岩手県と同県下の市町村において作成された議会文書等の収集を行う。また、生活史調査のフィールドのひとつである岩手県滝沢村の開拓地に関しては、そこに開拓者を送出した長野県下伊那地方の資料についても調査を実施する。 3.生活史調査:青森県岩木山麓地域と岩手県岩手山麓地域をフィールドに、戦後開拓地に居住する「第二世代」以降の人びとを対象としたライフヒストリー・インタビューを行う。 4.データ分析:収集した文献および資料をもとに、戦後開拓地における政策動向の影響や経営状況の動向を分析する。この作業と並行してライフヒストリー・インタビューから、対象地域ごとにどのようなパターンや特徴がみられるのかについて分析する。前年度に進めたマクロデータの動向、政策の動き、ライフコース分析によって得られた情報とを、それぞれ関連づけながら検討する。この作業を通じ、マクロな歴史動向とコミュニティコースの相互関係を明らかにする。
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次年度の研究費の使用計画 |
上記の研究推進方策に則り、以下のような研究費の使用を計画している。 1.物品費:文献資料の収集の一環として戦後農業史関係図書・戦後地域史関係図書、インタビューデータの解析のためのテキスト分析ソフト、複写資料の整理のためのファイル・整理箱、聞き取り調査の映像・音声を記録するためのCD-Rの購入、合計28万円。 2.旅費:東京での資料収集調査(3回)、盛岡市・滝沢村での聞き取りおよび資料収集調査(5回)に要する旅費、合計12万円。 3.人件費・謝金:支出しない。 4.その他:文献資料の複写、テープ起こし作業(業者依頼)、現地調査での自動車借上に要する費用、合計20万円。
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