研究課題/領域番号 |
24730410
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
高瀬 雅弘 弘前大学, 教育学部, 准教授 (20447113)
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キーワード | 地域社会学 / 戦後開拓 / コミュニティ / 世代 / ライフコース / 継承 / 家族 |
研究概要 |
本研究は、戦後日本社会における地域社会の変容を、戦後開拓地という、自然村とは異なる原理のもとに編成された地域のコミュニティに注目し、その形成の経緯や諸政策の影響、世代間継承によって生じる変化を分析することにより、社会変動が地域社会を生み出す過程と、地域社会が社会変動を生み出す過程という2つの次元から考察することを目的とする。平成25年度の研究実績は以下のとおりである。 1.文献資料の収集と整理・分類:図書館や資料館が所蔵する基本的資料・先行研究を収集し、批判的に検討した。なかでも長野県下伊那郡の戦後開拓地に関する先行研究を詳細に検討し、本研究の研究課題の再定位を行った。 2.資料収集調査:戦後開拓地を取り巻く当時の状況を把握するために、東京都・仙台市・青森市・十和田市において以下の資料を収集した。(1)開拓地の営農状況に関する調査資料、(2)開拓行政・一般農政に関する諸資料、(3)1940年代後半から50年代初頭の新聞・雑誌記事、(4)各開拓地の記念誌などの回顧的資料 3.生活史調査:青森県岩木山麓地域と岩手県岩手山麓地域をフィールドに、戦後開拓地に居住する第二世代の女性を対象に生育歴からコミュニティ体験、職業経歴、地域におけるネットワークの世代間の変化、といった点について、ライフヒストリー・インタビューを実施した。 4.データ分析:以下の3つのレベルでの分析を行った。(1)文献および資料に基づく比較的マクロなレベルでの戦後開拓地における政策動向の影響や経営状況の動向、(2)新聞・雑誌記事資料に基づく、生活史調査の対象地域固有の状況、(3)ライフヒストリー・インタビューに基づくライフコース、ファミリーコース、コミュニティコースのパターン 以上の分析から、第二世代の人々が抱える「家業継承」、さらには女性を中心とした「介護」といった固有の課題の存在を明らかにし、論文にまとめ発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度の研究計画に挙げた1.文献資料の収集と整理・分類、2.資料収集調査、3.生活史調査、4.データ分析、の4つの項目は、いずれも予定どおりに着手、進捗している。 このうち2.資料収集調査については、これまで先行研究でほとんど検討されることのなかった、東北地方の戦後開拓地の調査資料を収集し、政策面と実態との齟齬といった葛藤的側面が明らかになった。このような側面は本研究課題におけるコミュニティの形成と展開という視点にとってもきわめて重要な位相を示しており、聞き取り調査や回顧的資料との突き合わせを行いながらさらに検討を進めていく予定である。 また3.生活史調査については、開拓の「第一世代」への聞き取りを進めながら、徐々に「第二世代」へと対象を拡大し、人々の意識の世代による差異とジェンダーによる差異が明らかになった。こうした生活史調査を通して、新たに2つの課題が浮かび上がった。第一に、生活史調査のフィールドである酪農地域は、東日本大震災と福島第一原子力発電所の事故の影響を受けており、現代の大きな社会変動がコミュニティにいかなる影響を及ぼしているか、また「第二世代」から「第三世代」への継承がどのように変容していくかといった点が新たな課題として挙げられる。第二に、「第一世代」から「第二世代」への移行のなかで、「第一世代」を送出した「母村」に対する意識も変容しつつあり、この関係性をどのように捉えるかということも新たな課題として挙げられる。同時に変容する関係を新たに捉え返そうとする動きもあり、この点についても検討を進めたい。 以上のように、本研究の当初の目的についてはおおむね順調に達成されると考えられるが、同時に新たに取り組むべき課題が発見され、これらへの取り組みは、本研究のもつ学術的な意義をより広げると考える。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題の最終年度となる平成26年度は、以下のような形で研究を進める。 1.文献資料の収集と整理・分類:これまでに収集した資料について、それぞれの開拓地の成立の経緯や地方・立地による違いに注意をしながらカテゴリー分けをし、整理・分類を行う。この作業を行うことによって、これまで多くの事例が蓄積される一方で、十分に行われてきたとはいいがたい戦後開拓地の類型化を試みる。 2.資料収集調査:これまで進めてきた中央官庁の公文書を中心とした文書資料の収集を引き続き進めるとともに、地方行政に関わる資料群の収集を進める。これまで青森県・岩手県の文書資料を収集してきたが、加えて開拓地へと開拓者を送出した長野県の政策動向にも注目し、同県の戦後開拓に関する政策文書・統計文書等の調査と収集を実施する。 3.生活史調査:青森県岩木山麓地域、岩手県岩手山麓地域の戦後開拓地をフィールドとした「第二世代」「第三世代」の人々を対象としたライフヒストリー・インタビューを継続するとともに、戦後開拓地の特徴を浮かび上がらせるための比較対象として、戦前期からの開拓の歴史を有する青森県十和田市の開拓地をフィールドとした調査を実施する。この調査については、現地を訪問し、協力者とラポールを形成している。 4.データ分析:収集した文献および資料をもとに、政策動向や経済変動が戦後開拓地のコミュニティに与えた影響を分析する。同時にコミュニティの内部過程についても考察を進める。これと併せてライフヒストリー・インタビューに基づき、対象地域ごとにみられるコミュニティの変容パターンや特徴の明確化を行う。 5.研究の総括:これまでに蓄積してきたマクロデータの動向、政策の動き、ライフコース・ファミリーコース・コミュニティコースのパターンを、相互に関連づけながら検討する。そのうえで、戦後日本における戦後開拓地の位置づけを行い、研究を総括する。
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