研究課題/領域番号 |
24730411
|
研究種目 |
若手研究(B)
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
寺田 征也 東北大学, 情報科学研究科, 博士研究員 (40583331)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | コミュニティラジオ / コミュニティメディア / 東日本大震災 / 社会学 / 地域研究 / 災害情報 |
研究概要 |
平成24年度は対象である「エフエムたいはく」の震災以降の新たな試みである、他の放送局との連携やサテライトブース設置に関する調査を、聞き取りと参与観察を通じて行った。地域の放送局が地域内外との結びつきを強めつつ、安定した経営を実現するためには(1)放送局の認知度を高め、(2)広告料の確保を進める、という二点が重要である。そうした点を展開する上で、情報の収集と発信の強化および地域住民による参加のハードルを下げる活動がなされてきており、それは行政に対するコミュニティ放送局の有効性を示す意義も含まれていることが明らかとなった。 また仙台市の放送局だけでなく、平成24年12月に兵庫県の「エフエムわぃわぃ」、京都府の「京都三条ラジオカフェ」を訪問し、非被災地の放送局が被災地の放送局にどういった支援を実施しているかの聞き取りを行った。平成25年度以降の研究を進めるうえでの被災地の放送局を巡る状況を把握することができた。 平成24年度に実施した本研究の成果は、「コミュニティ放送局のアイデンティティと災害対策――エフエムたいはくを対象として――」(第85回日本社会学会大会(於:札幌学院大学))として学会報告を行い、また「被災地におけるコミュニティ放送局の現状と課題――エフエムたいはくを対象として――」(『現代社会研究』東洋大学現代社会総合研究所)として報告書に取りまとめた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
対象である「エフエムたいはく」の活動に寄り添うことにより、放送局のメンバーとのラポールが形成されつつある。その結果、他の放送局の関係者や仮説住宅入居者との繋がりをもったインフォーマントと好関係を結ぶことができている。 また、対象の「エフエムたいはく」が、近隣にある仮設住宅入居者による番組作りを開始したことによって、地域の放送局による被災者支援の実体がより鮮明に現われつつある。こうした対象の変化によって、本研究の課題を設定した当初の状況が起こりつつあるといってよい。 さらには、本研究の報告を通じて、コミュニティ放送局を中心としたコミュニティメディア研究者の多くと研究交流を持つことができるようになった。その結果、研究会参加などを通じて研究情報や被災地における他のコミュニティ放送局の状況についての情報を広く交換しあうことが可能となった。本研究は申請者が主体となって進めて行くものであるが、震災以降多くのエフエム局が立ち上がったことにより、一人で全体像を把握することは難しい。しかしながら、他の研究者との共同を通じて、全体状況の把握することができるようになり、さらには対象としている放送局の特徴がより鮮明なものとなってきた。 以上のことから、本研究はおおむね順調に進展しているといえる。次年度以降も、さらなる発展がみこまれる。
|
今後の研究の推進方策 |
平成24年度の研究は、おもに「エフエムたいはく」の活動に注目していたが、今後は他の放送局の状況を踏まえつつ、震災以降の東北地方における放送局の役割や経営のための諸問題について見て行きたい。 特に、次の二点に注目したい。(1)臨時災害エフエム局からコミュニティ放送局へ移行する際の問題点、(2)沿岸部と山間部の放送局との役割の違い、の二点である。 (1)については、特に沿岸部を中心に2年間(平成24年度中に3年間に延長)という期限をもった臨時災害エフエム局が、震災以降の活動を通じて地域に根づいたことをきっかけに、設置期限をもたないコミュニティ放送局へ移行しようという動きがでてきている。これは臨時災害エフエム局の活動を通じて地域から放送局へのニーズが高まり、恒常的な地域の放送局の設置に動きつつあるということである。他方で、コミュニティ放送局へ移行しない決断をする局もいくつかみられる。こうした、移行するしないを分つもの、移行してからの放送局の維持管理のハードルについて、宮城県および岩手県の放送局を対象に、聞き取りをおこない、移行に際しての諸問題を明らかにしたい。 (2)については、放送局の地理的差異が放送局の運営にどういった影響を与えているのか、特に放送局関係者と行政へのヒアリングを通じて見て行きたい。現在宮城県および岩手県にある臨時災害エフエム局は、主として沿岸部に集中している。これは、津波被害によって防災無線が消失したことによって、電波をもちいた情報インフラとしての放送局が有効であることに起因している。つまり、沿岸部という地理的特徴が臨時災害エフエム局を維持させているひとつの要因となっている。他方、宮城県北部から岩手県南部においては、内陸地震などに際して有効性を発揮した実績がある。こうした、地理的特徴が放送局の性格をいかに決定付けている/いないのか、という点を明らかにしたい。
|
次年度の研究費の使用計画 |
次年度の研究費は、主に調査旅費と研究発表旅費に費やすものとなる。 既述のとおり、次年度は宮城県や岩手県の放送局を対象として、ひろく東北地方のコミュニティ放送局の現状と災害に対する対応および被災者支援について聞き取りを行うものであるが、そのためには調査旅費が必要となる。特に沿岸部は鉄道網が断絶している地域もまだ残されており、容易に往訪することが難しいことが挙げられる。そのための宿泊費用や移動費が、本年度の研究費の用途となる。 また、調査の結果を広く公表するために、研究発表旅費も大きな用途となる。特に、次年度は日本国内にとどまらず、海外学会での報告を予定している。日本の震災以降のコミュニティ放送局の情報は、日本国内外問わずニーズがあり、積極的な情報発信が求められている。そうしたニーズに沿うために、日本の放送局の特徴や現状、被災者に対する支援の実態について報告していく。そのための費用として、研究費を使用することになる。 さらには、研究を進めるうえでの書籍の購入費用、聞き取りデータのテープ起こしのための人件費なども、研究費の使用計画に含まれる。
|