研究課題/領域番号 |
24730415
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
青木 聡子 名古屋大学, 環境学研究科, 准教授 (80431485)
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キーワード | 環境社会学 / 社会運動研究 / 地域社会学 |
研究概要 |
平成25年度は、前年度に引き続きドイツの事例についてのデータ収集と分析をおこなったほか、成果の報告をおこなった。具体的には以下のとおりである。 まず、前年度からおこなっている、フィリップスブルクおよびビブリスにおいて原子力発電所稼働停止後の地域社会の状況についての調査では、文書資料の収集と分析を重点的に進めた。いずれの自治体においても、原発の稼働停止後は自治体の財政状況が引き続き悪化していることや、働き口の喪失などの直接的な影響だけでなく副次的な影響も昨年度以上に深刻化していることが明らかになった。加えて、ビブリスで行政主導のもと展開されている「将来構想のためのプロジェクト」の調査では、プロジェクトの一環として実施された全住民対象のアンケート調査の自由回答欄の分析や、市民フォーラム(討論会)議事録の分析を進めている。それらの成果の一部は、環境社会学会大会企画セッションおよび日本ドイツ学会フォーラムにて報告したほか、『環境社会学研究』第19号で論文として発表している。 次に、フライブルクおよびその周辺地域において前年度に収集したデータから、ヴィール原発反対運動の「その後」について、特に地域社会における「闘いの記憶」の継承やそれによる新たな集合的アイデンティティの形成に着目して分析を進めた。それらの一部は、本年度に上梓した単著『ドイツにおける原子力施設反対運動の展開――環境志向型社会へのイニシアティヴ』に盛り込まれている。加えて、過去の反原発運動の経験が、現在の再生可能エネルギー推進活動のなかにいかに受け継がれつつあるのかについて、フライブルクで定期的に開催されているワークショップへの参与観察の結果や議事録をもとに調査分析を進めている。 さらに、日本の事例では、芦浜原発反対運動後の当該地域について、文書資料の収集を進めたほか、5月に現地で予備調査をおこなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の予定では、平成25年度は日独でのフィールドワークを本格的におこないデータを収集する予定であった。具体的には聞き取り調査を重点的に進める予定であったが、ドイツのフィールドに関しては、調査先の都合等により次年度以降に先延ばしすることとなった。代わりに、本年度は文書資料や統計データの分析を進め、その結果をもとに次年度以降、聞き取り調査及び質問紙調査をおこなうこととした。 日本のフィールドに関しては、芦浜原発計画跡地について5月に現地で視察および聞き取り調査をすることができた。 成果報告に関しては、環境社会学会および日本ドイツ学会で報告をおこなうことができ、おおむね予定通りであった。
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今後の研究の推進方策 |
本年度実施できなかった分もあわせて、ドイツおよび日本で本調査を進める。 具体的には、ドイツの3事例に関して、建設跡地がそれぞれのかたちで開発、活用されるに至った経緯について、当時の行政担当者、地元政治家、誘致された諸企業の関係者、住民運動団体メンバーなどに詳細な聞き取り調査をおこなう。その際に、どの点において、これら関係者の利害や思惑が一致したのかに特に焦点を当てる。 加えて、それぞれの地域の住民を対象として、現時点で、運動当時の計画「推進派」「反対派」をどの程度意識しているのか、それは特に日常生活の度の局面で強く現れるのかという点と、原発関連施設に代わってそれぞれの地域にもたらされた産業(オーバーラインについては跡地に何も誘致されなかったこと)に対してどのような評価をしているかを明らかにするための面接形式のアンケート調査をおこなう。 さらに、ビブリスでの住民アンケート調査を計画している。原発停止から3年を経て、立地点周辺住民の生活がどのように変化したのかに焦点を当て、2012年8月に実施された住民アンケートの後継調査的な位置づけで実施する。 調査研究の成果は、学会等で報告するほか『ドイツ研究』、『環境社会学研究』などの学会誌に論文として発表する。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度実施予定であったドイツでのフィールドワークを、調査先の都合により実施することができなかったため、当初旅費に充てる予定であった予算を次年度に使用することとなった。 次年度使用予算は、当初から平成26年度に使用予定であった予算と合わせて、ドイツでの現地調査のための旅費と質問紙調査に充てる。旅費については、2往復分の渡航費および合計30日程度の滞在費を予定している。
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