研究課題/領域番号 |
24730415
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
青木 聡子 名古屋大学, 環境学研究科, 准教授 (80431485)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 環境社会学 / 地域社会学 / ライフヒストリー |
研究実績の概要 |
平成27年度は、前年度に引き続きドイツの事例についてのデータ収集と分析をおこなったほか、成果の報告をおこなった。具体的には以下のとおりである。 まず、ドイツの使用済み核燃料再処理施設反対運動を経て当該施設の建設を拒否したヴァッカースドルフおよびその周辺地域に関しては、当該運動が終結した1989年からの地元紙の収集に加えて、レーゲンスブルク大学のU.Otto氏らとともにデジタルアーカイブの作成を進めている。反対運動の文化的側面に着目したデジタルアーカイブの作成を通じて、反対運動が当該地域にもたらした社会的・文化的影響を分析している。 次に、原子炉、冷却塔、その他の建屋がすべて建設されたものの使用されることなく閉鎖されたカルカー高速増殖炉について、現地を訪問し現状を調査した。高速増殖炉の跡地は現在、施設をそのまま活用したテーマパークとなっており、原子炉一つ分以上に相当する470名程度の雇用が確保されていることが分かった。 さらに、原発立地点については、これまで調査対象としてきたビブリスに加えて、ゲーシュタハトとブロクドルフでも調査をおこなった。これらのうち、既に原発が停止しているビブリスとゲーシュタハトでは、営業税の激減による財政面への影響が大きいことが明らかになった。ただし、雇用に関しては、昨年度まで言われていたほど悪化はしておらず、とりわけゲーシュタハトにおいてはほとんど影響がないことも分かった。加えて、ビブリスにおいては行政主導のもとでのベッドタウンとしての地域づくりが功を奏し、一時は流出により減少しつつあった人口が、移入により増加に転じていることも分かった。今後、フランクフルトやマンハイムといった大都市と直通の鉄道路線の整備がおこなわれることになっており、さらなる変化が見込まれる。 これらの調査の結果の一部は、研究会やワークショップでの報告を通じて公表している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、昨年度までの予備調査をふまえた本格的なインタビュー調査をおこなうことができた。特に原発が停止した自治体ビブリスにおいては、原発立地以前~原発稼働期~原発停止度という変化が地域住民によっていかに経験されたのかという点に重点を置き、地元住民にライフヒストリーの聞き取り調査をおこなった。同じく原発が停止した自治体ゲーシュタハトでも、原発立地以前の地域史に関する文書資料の収集や聞き取り調査を進めることができた。このほか、ヴァッカースドルフについても地元大学の研究者らとの連携ができデータの収集が進んでいる。 今後、得られたデータの分析を進めることで、研究成果を公表する見込みである。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画では対象を原子力施設の立地そのものを拒んだ地域に限定した日独比較に主眼を置いていたが、現時点では対象が(いったんは原子力施設が建設されたもののその後手放すことになった)原発立地自治体にまで拡大されている。それは、現在の日本の原発立地地域が抱える課題を視野に入れてのことである。来年度も、ドイツにおいて原発を拒んだ地域のみならず原発をいったん受け入れ共存(依存)してきた地域についての調査を進め、原発に依らない地域社会のあり方について分析を進めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
調査対象の都合により調査が困難になった日本の対象地域の代わりに、ドイツでの調査対象地域を追加・変更した。これに伴い、当初の調査計画が変更となり、使用計画にも変更が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
ドイツでの現地調査にかかる渡航費および滞在費と、研究成果の公表に使用する。
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