最終年度の研究実績の概要は次のとおりである。第一に、東日本大震災により甚大な被害を受けた岩手沿岸の県立病院(高田病院など)の詳細な復旧状況を昨年度に続いて明らかにした。第二に、昨年度から続けている地域医療に関する文献のサーベイ等を踏まえて、農村における公立病院の概況と地域医療政策の基本課題を整理した。第三に、(農村)地域医療における住民参加に関する文献のサーベイ等を継続して進めるとともに、岩手県内を中心にして住民参加の事例を、現地調査を踏まえて整理した。 第一の点については、現地調査の継続によって、病院再建プロセスにおける県当局や地域住民の問題がよりクリアになり、岩手の地域医療の課題を生々と明らかにすることができた。例えば、①住民ニーズを反映するための意思決定システムを抜本的に見直す。②地域医療のビジョンや県立病院等の存在意義を県当局と地域住民等の間でしっかりと共有し、そのなかで医師の不足問題や勤務環境に向き合う。③地域医療とくに公立病院・診療所における住民参画・参加、ボランティアの推進である。 第二の点については、次のことに重点を置いて整理した。①農村における地域医療・公立病院と地域介護の概況。②農村における地域包括ケアシステム。③地域包括ケア推進の課題。④地域医療・福祉における住民参加・ボランティア。長い年月のなかで供給側におけるリーダーシップだけでは説明できない、地域の実状に応じた住民主体の多様な取り組みがみられるようになっている。 第三の点について、岩手では県(医療局)と対立する「政治運動型」が多く、大きな影響力を与えている一方で、「交流型」が増えている。「交流型」では病院・医師との交流が大きなインパクトを持っており、岩手モデルの構築にとって示唆的である。現実、それは広がらないが、県(医療局)・市町村全体の取組みが課題であり、その先に「協働・参画型」が考えられる。
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