研究課題/領域番号 |
24730425
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 大阪府立大学 |
研究代表者 |
福永 真弓 大阪府立大学, 現代システム科学域, 准教授 (70509207)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 国際情報交換 東アジア / 国際情報交換 北米 |
研究概要 |
平成24年度は、岩手県宮古市の閉伊川流域および津軽石川流域における増養殖の歴史について資料を収集し、①環境史的な視点のもとでの、増養殖技術導入から現在に至るまでのサケ増殖ふ化事業とその周辺の社会経済史を中心とした分析、②環境社会学的な視点にもとづき、主に増殖ふ化事業の周辺における社会組織(漁協、繁殖保護組合、水産加工業、小売商店、水産技術者と国・県・民間の水産技術センター、婦人会、行政組織など)の変遷を、近世後期(商業資本と地元漁民による漁場争いの時代)、明治期(地域社会による漁業権確保とその正当性の根拠としてのふ化増殖の開始)、戦前戦後(サケ漁の観光化と地域産業化の時代)、1963年以降(サケふ化事業拡大の時代)、1992年以降から現代(生物多様性や環境に関する新たなイデオロギーと新たな産業構造変化)の5つの時代に暫定的に区分し、それぞれの大きな変遷の過程とその要因および地域社会との相互作用について分析を行った。 分析過程において、グローバルな北太平洋におけるサケ資源の利用と管理について、人びとの地域社会において蓄積されてきた経験や知識、従来の経済社会ネットワークが、新たな科学知の周囲で再編成され、「漁民」権利の確立のために利用されてきた経緯が明らかになっている(特に①の視点から)。また、高度成長期を経て生活様式および産業構造の変化と複雑に絡みながら、流域資源を複眼的な目で見て管理する地域のメソッドが蓄積・伝承されないまま、シンプリフィケーションの進む過程があることも明らかになっている(主に視点②から)。 これらの業績については、2013年のISSRM(社会と資源利用に関する国際シンポジウム)、ヨーロッパ国際社会学会、東アジア環境史国際シンポジウムにおいて発表を行う予定であり、現在関連の論文を英文で執筆中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
震災後の資料収集において、個人商店の記録などがかなり喪失されており、また、行政資料においても、特に1963年から沿岸漁業等振興法以降から現在に至る、市史に収められていない部分の資料が喪失されていることが明らかになった。予期していたことではあるが、想定していた以上に復元できない資料も多く、その点については聴き取りをしながらできるだけ穴を埋めていくことが必要である。 しかしながら、その他の研究については当初の予定通り以上にすすみ、研究成果を発表できるタイミングについても早く設定することができている。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、これまで明らかになった点を踏まえつつ、特に1963年の沿岸漁業振興法と港湾整備、70年代以降のギンザケという新たなサケ種の養殖事業の導入と岩手県におけるその撤退までの一部始終について、聞き取り調査や資料分析を進めたい。さらに、同時期の農業基本法の整備に伴う農地整備と流域の変化、それらに伴う社会組織の変化などを精査・分析することが必要である。 また、それぞれの分野ごとに流域の機能と目的利用を切り取る視点が、流域全体を複眼的につねに把握して資源利用を行おうとする人びと(やんもうど=ヤマ農家、はんもうど=ハマ漁家)とどのような形で齟齬をひきおこし、その様な人びとはどのようにそれに対処しながら生存戦略をたててきたかについて、研究および議論を積み重ねたい。 その上で、本来ならば複合的な資源利用の上にあるはずのサケ増養殖(および、サクラマス、アユ、ヤマメ、イワナ)が、「モノ」生産でありうるような技術開発が行われてきた社会的背景をそれらの研究と重ね合わせて参照し、サケ増殖ふ化事業を中心に、あらためて様々な政策変化や地域組織の変遷、社会経済の時代背景についてとらえ直したい。 同時に、①サケの増養殖について、歴史的に同時代性を持ちながらも、環境条件や社会状況の差から、大きく異なる結末を迎えている北米のサケ増養殖事業について、②日本や欧米のサケ消費を支えるために「いなかったはずの」サケを増養殖し始め、社会問題と大きな地域社会の構造変化をもたらしているチリ・アルゼンチン沿岸など、国内の事情と連動しながら増養殖事業が輸出されていく過程についても把握を進めたい。これらの海外への展開、海外の状況の変化は、水産事情と行政のグローバルな変化と密接に結び付きつつ、地域社会に大きな影響を与えていると予測されるからである。
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次年度の研究費の使用計画 |
引き続き、聞き取り調査や資料分析のために岩手県宮古市での調査を続けるための国内旅費(40万円)、および研究発表のための海外旅費(30万円)が必要である。また、資料分析を行うために、インタビューのテープおこし、津波で浸水した資料の復元代金(主に写真と文書)が必要となる。また、地域の人々に成果報告を行うこともかねて、写真展を行うための資料を印刷する予算も必要となる。
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