研究課題
今年度は主に資料収集・分析から、①ふ化放流技術の移入の政治的理由と制度化の過程と地域社会によるその受容過程について②ふ化放流技術の地域社会への「根付き」とそれによる社会経済構造の再編成過程について③環境史的観点からとらえたふ化放流技術の移入過程と流域資源管理のフレームワーク形成過程について明らかにすることができた。これら3つの視点からふ化放流技術の導入と地域社会の変容の過程を捉えることによって、標準化された知識と技術に適合されていくために、地域社会側の流域資源を資源化し、価値づけし、マネジメントしていく仕組みが変容してきたことを具体的に明らかにすることができた。同時に、ふ化放流技術という人工的な過程によって自然資源の再生産を置き換えることに関して、イギリス、カナダ、アメリカ、ドイツで蓄積されてきた養殖とふ化放流技術の開発に関する議論を参照しながら、移入された知識と技術が日本においてどのような社会構造と既存の産業および知識・技術とリンクしながら展開してきたのか、その特徴とは何かを比較研究するための資料を収集し、分析を始めた。岩手県宮古市における現在のふ化放流事業をめぐる質的調査からは、ふ化放流事業に携わる人びとの知識、知恵、技術、技能、技法について、身体性を介して個人あるいは集団の中に蓄積されていくものであり、単に科学的技術を受容するのではなく、必然的に働きかけの対象であるサケと周辺の生態環境、人間側の身体性と社会環境との兼ね合いの中で、最適化されていく過程をへることが明らかになった。本年度は主に前者のふ化放流技術の移入と地域社会の変容について、タイセイヨウサケとギンザケなどに関する社会的研究が数多く発表されている3学会で発表を行い、論文執筆に向けた議論を行った。来年度はこれらをもとに、論文執筆と本の出版を行う予定である。
1: 当初の計画以上に進展している
国際学会発表の場を多く設けることによって、海外の研究者との研究ネットワークをつなげることができた。また同時に、環境史の視点を得ることによって、研究のフレームワーク自体がより明確になり、本の出版に向けた議論を進めることにつながった。
ふ化放流技術の本州と北海道との政治的制度設計の相違、技術者同士の知識交換とネットワーク、技術者の持つ身体知と科学的知識の相克など、これまでの研究成果からみえてきた新たな視点について、いくつか追加調査を行い、その成果もあわせて論文を執筆する。特に、身体知、およびサステイナビリティと、技術移入による地域社会の環境容量の人為的変容については別途研究プロジェクトを新たに建てることを視野に入れたい。
すべて 2014 2013 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 2件)
The Second Conference of East Asian Environmental History, National Dong Hwa University, Oct. 24, proceeding paper
巻: 1 ページ: 16pp
International Journal of Japanese Sociology
巻: 22(1) ページ: 160-177
10.1111/ijjs.12004