研究課題/領域番号 |
24730426
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研究機関 | 和歌山県立医科大学 |
研究代表者 |
本郷 正武 和歌山県立医科大学, 医学部, 講師 (40451497)
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キーワード | HIV/AIDS / 当事者運動 / ライフストーリー / 評伝 / 薬害 |
研究概要 |
「薬害HIV」感染被害者Y氏が目指した「当事者運動」の理念を彫り出すために、本調査研究では故人に縁のある人々に対する聞き取り調査にとどまらず、書簡や写真、映像資料などの遺品を収集し、Y氏の評伝を製作する。昨年度は前年度に引き続き、故人と縁のある地方および海外在住の方々への追加・補足インタビューをおこなった。Y氏の来歴は大きく、(1) 高校在学まで(1958~1978年)、(2) 大学在学期(1978~1983年)、(3) 当事者運動の準備期(1983~1988年)、(4) 当事者運動を展開していた時期(1988~1996年)、(5) 薬害HIV訴訟和解後から死去するまで(1996~2003年)、のように区分することができる。昨年度はそのうち(2)~(3)の期間の動向を追跡することに時間を割いた。結果、HIV感染告知を受け、活動のあり方を模索する中で、サンフランシスコを訪問し、現地の薬害HIV感染被害者や医療関係者と多数会うことで、自らのアイデンティティと活動方針を練っていたことがわかった。この訪問を境にY氏はHIV/AIDSや血友病に対する向き合い方について、チーム医療の重要性やNPO・ボランティアベースによる当事者支援活動の意義について確証を得ていたことになる。加えて、HIV訴訟期での国会陳情では、積極的に共感する議員の元に足を運び、薬害感染者と性行為感染者を区別しないかたちでの医療支援体制の構築を訴えていた ことがわかった。以上のHIV/AIDSをめぐる集合行為のあり方について、運動参加プロセスに焦点を合わせた論考の投稿、Society for the Study of Symbolic Interaction Annual Meeting (New York, 2013年8月)での口頭報告を調査研究の中間報告の一部とした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
評伝の制作上、重要な聞き取りは昨年度中におおよそ終わらせる予定であったが、キーパーソンへの複数回のインタビューに加え、サ ンフランシスコ訪問時の足取りに不鮮明な点が多く、追加・補足のインタビューに多くの時間を割かなければならなくなった。それゆえ、Y氏が大学に進学するまでの話や障害者運動に傾倒した時期の活動、および訴訟期のより具体的な活動の様子についての調査研究が遅れている。しかし、現在もインフォーマントや依頼者との連絡調整を頻繁におこなっており、調査研究自体の継続には障害はなく、今後も引き続き詳細なインタビューをおこない、Y氏の足跡を丹念に再構成し、最終年度(26年度)には研究成果の暫定的なまとめを作成する予定には変わりがない。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は評伝の制作を進めるために、インタビュー調査はもちろんのこと、故人の遺した文書資料の内容分析を重点的におこなう。インタビューでは、 Y氏が大学進学するまでの様子、当事者運動から一歩引いた形となった後年の様子を中心に対象者を選定する。さらに、Y氏が本名・ 仮名それぞれで執筆・投稿した文書資料を引き続き収集し、Y氏の考える当事者運動の理念を彫り出すことを試みる。さらに、本調査の中間・最終報告として、日本社会学会(11月22~23日、神戸大学)での口頭報告、および『Symbolic Interaction』へ投稿する。
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次年度の研究費の使用計画 |
Y氏の評伝の制作上、重要な聞き取りは昨年度中におおよそ終わらせる予定であったが、Y氏のサンフランシスコ訪問時の足取りに不鮮明な点が多く、国内の主要なインタビューおよび文書資料や遺稿の内容分析に多くの時間を割けなかったため。 現在もインフォーマントや依頼者との連絡調整を頻繁におこなっており、調査研究自体の継続には障害はなく、本年度は国内を中心に詳細なインタビューをおこなうとともに、Y氏に関する文書資料の収集や遺稿の内容分析に専念する。
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