研究課題/領域番号 |
24730432
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研究機関 | 東北学院大学 |
研究代表者 |
植田 今日子 東北学院大学, 教養学部, 准教授 (70582930)
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キーワード | 津波常襲地の社会史 / 海を臨む集落の領域論 / 視覚的記録 |
研究概要 |
●『更地の向こう側ー解散する集落「宿」の記憶地図』東北学院大学トポフィリアプロジェクト (担当:共編者) かもがわ出版(2013年8月)ISBN:978-4-7803-0620-0 ●「なぜ大災害の非常事態下で祭礼は遂行されるのか」(特集「社会問題としての東日本大震災」)『社会学年報』vol.42 pp43-60(2013年7月) ●「災害リスクの"包括的制御"(特集 東日本大震災・福島第一原発事故を読み解くー3年目のフィールドから)金菱清と共著『社会学評論』vol.64(3) pp386-401(2013年12月) ●「どこまでが集落かー津波常習地の漁村集落にみる海の領域意識」『歴史と民俗』vol.30 pp171-188(2014年2月) いずれの業績も、東日本大震災の津波常習集落(気仙沼市唐桑町)で行なわれたフィールドワークにもとづいた成果である。津波常習集落の人びとが、常習地であるからこそ培ってきた津波被害を減少させる慣習や伝承をを明らかにしている。特に一行目にある書籍は、学術的成果というよりも記録としての性格がつよいアウトプットである。2011年の津波を契機として解散することになった少なくとも400年以上の歴史を有する集落で、人びとの語りによって遡ることの可能な限りの生活史を収集した。また多くの写真が流失していたことによって視覚情報を得ることが難しかった。これを再現するため、建築的素養をもつ絵描きの研究協力者にも加わってもらい、集落の三つの時代を絵地図にした。この記録がもとになった出版物は集落の全世帯の方々にお渡しした。三つの原画もまた、現地の小学校に寄贈する予定である。記録を目指した取り組みであったが、未経験である者が津波を後世にどのように伝えてきたのかが記録の収集によって明らかになってきた。このことが現在取り組んでいる別の学術論文を記すきっかけともなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初予定していたよりも多くの、かつ多用な研究者およびインフォーマントとの交流があり、調査や研究を互いに活性化させる機会を得ることができた。これは東日本大震災が各地から研究者や報道関係者を呼び寄せていることに起因しているように思う。想定していたフォーマット(学術論文)ではないアウトプット(記録集、アーカイブ)を創りだすことによって、学術的な成果の刺激をむしろ多大に得ることができた。 このような相乗効果が研究を積極的にしてくれたことが、当初の計画以上の進展に繋がっていると認識している。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は残すところ2ヶ年となり、ちょうど現在は折り返し地点にあるといえる。最終年度は成果をまとめることに多くの時間が割かれることが考えられるため、本年度は資料収集やフィールドワークなどの調査に多くの労力を注いでおきたい。津波常習集落では防潮堤の建設や原発(女川原発)の再稼働など、現時点で新たな問題がうかびあがっている。 このような津波常習地での動きは、当事者の人びとが時が経つほど拡散していき、把握が困難かすることが考えられる。仮設住宅の多くが入居期限を迎える時期がせまっているからである。したがって今年度はとくに現地でのフィールド調査に多くの時間を割きたい。とりわけ「津波を知らない者」が「津波を知らない世代」にどのようにして津波への備えを伝えてきたのかについて、唐桑半島での調査をひきつづき行う予定である。 現在までの調査がきっかけとなって今後展開していくことになった本研究の方向性としては、以下の点が上げられる。それは、半島という単位で津波を受け止めてきたという仮説である。半島内の各集落では、津波の被害の大小が把握されているということが明らかとなった。つまり、津波襲来の際にどの集落がもっとも脆弱か、ということが、繰り返されてきた津波によってある程度把握されているということである。そして被災後の避難所生活や生活再建においても、半島内で無事であった集落が被害の大きかった集落を支えるという連携がみられた。「沖出し」をした船同士で、無事であった船員を半島内に伝えるということも行なわれていた。 「半島単位で津波を受け止める」というこの仮説をより詳細に検証するためにも、岩手県の津波常習地である重茂半島において比較してみる予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
想定していたよりも、調査研究の成果をまとめる機会が多く、多大な時間が割かれた。そのため調査の頻度が予定していたよりも低かったので旅費としての支出が減少した。 本年度は、復興住宅等の建設も進みつつあり、被災地である調査地においては大きな動きが予想される。そのため、昨年度よりも多くの時間を調査に注ぐことを予定している。具体的には聞き取り調査にくわえて、繰り返しやってくる津波を伝えててきた有形無形の多用な媒体を収集する予定である。
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