本研究課題は、2012年から2014年までであった研究期間を本年度まで延長し、(1)研究課題成果の国外での学会発表、および(2)代替療法実践についてのインターネット調査を行なった。 (1)は、ドイツ・エアフルト大学で行われたIAHR(国際宗教史学会)におけるパネル発表である。アメリカ・カナダ・日本の研究者により、20世紀の日本およびアメリカを題材に、大衆的に消費される心身に関する知識や実践が国境を越えて影響を与え合うさまが報告された。本研究課題の調査対象であるヒーリング技法「レイキ」はその中心となる事例のひとつであり、その成立に1920年代の日本の代替療法文化があること、その中でもニューソート化したヨガのアメリカからの導入が強く関わっている可能性が高いことが示された。このパネル報告の準備・実施過程で得られた知見は、現代の代替療法に広範に見られる言説構造あるいはそれに支えられた実践を、長いスパンとグローバルな視野の中に置いて考えることを可能にした。 (2)は、株式会社マクロミルのモニターを用いて、代替療法の利用実態と主な情報源や消費行動、生活・健康状態などとの関連を調べたものである。この調査では、代替療法へのアクセスが最も高い上位10%について、家計への満足度が高いことや心身のトラブルを抱えている傾向が強いこととなどともに、「地産地消」「自然や環境に配慮した消費」「フェアトレード商品の利用」など、いわゆる「倫理的消費」を志向する割合が高いことも示された。同時に、新しい物事を取り入れるのに積極的な態度も見出された。インタビュー調査では、生活や健康についての個人的な体験やネットワークが代替療法へのアクセスに結びついていることが示されていたが、本調査はさらにそれが社会に流布する規範的言説やそれに対する態度と結びつく点を示唆しており、本研究課題当初の問題意識の解明が大きく進んだ。
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