<研究目的>本研究では人工妊娠中絶を例に、生殖に関わる負の「責任」が女性に負わされていくことと、そのことへの当の女性たちの対処を明らかにしようとした。 <研究方法>研究期間を通じて、10名の方にインタビューを行った。インタビューを受けてくださった方の中には、中絶をした女性、そのパートナー、比較対象としての流産・死産を経験した方がいる。また、中絶の理由としては、セックスパートナーとの婚姻関係を結んでいないこと、胎児の障害、子どもの数の調整など、様々であった。並行して、理論的背景として「当事者」概念に関する考察を行った。 <研究成果>中絶を経験した女性たちのなかには、胎児に対する罪責感に苦しむ人も、そうでない人もいた。また、苦しんでいても、胎児に対する罪責感ではない感情を感じている人もいた。しかし、社会的に女性が中絶の責任を負うべきだという規範があることは、ほぼ全員が感じていた。 同時に、中絶に関する決定が自分一人で行えるものだったと考えている人も少なく、パートナーや周囲との人間関係、環境のなかで決定されたと考える人が多かった。そして、そうした他の人の思惑や行動に左右されたくないということの表れとして、中絶は自分で決めたことだと語る人もいた。これらのことから、女性たちは自らの意志だけで決定したのではない中絶の責任を、自分で背負うという矛盾にさらされていることがわかる。 これについて、本研究では、星加良司の「他者性に開かれた形で概念化し得る自己決定」といった概念を参照しつつ、生殖に関して無視されがちな女性の意志を守りながら、現実に存在する他者の影響を含み込んだ生殖の「自己決定」概念を考えようとしている。今後、インタビュー成果の整理をつづける予定である。
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