現在の国内の多様な貧困対抗活動について、個人的および社会的レジリエンス、すなわち、個人の生活や社会の仕組みを柔軟に再組織化していく力という観点から社会生態学的に評価し、それぞれの活動の顕在的/潜在的社会的意義を明らかにすることを試みた。方法としては、これまで報告者が行ってきたフィールドワーク、文献、インタビュー調査などから構成した貧困対抗活動の生態系の枠組みを活用した。その枠組みとは、① ネットワーク系(当事者近接・ボランティア志向)、② 草の根連帯経済系(当事者近接・事業志向)、③ グリーン/アース系(当事者遠隔・ボランティア志向)、④ ソーシャル系(当事者遠隔・事業志向)、である。これらの各系統に関して収集した各種データを活用して、シカゴ学派社会学由来の社会生態学などの観点から評価し、個人的レジリエンスおよび社会的レジリエンスへの示唆を探った。各系統が生み出している個人的レジリエンスの特徴的な例としては、相談者の生活の組織化、当事者活動家の文化的生活の組織化、人材育成、関係者の自己実現、が挙げられる。社会的レジリエンスの特徴的な例としては、自己責任論に関する人々の社会意識の変容、草の根からの持続的な活動システム構築の方法の提示、海外の貧困派生問題の議題設定機能、特有の文化的要素を組み入れた新しい社会システム構築の方法の提示、が挙げられる。現在の国内の貧困対抗活動は、一枚岩で捉えられるものではない。そればかりでなく、本研究における各系統は、社会生態学および個人的/社会的レジリエンス評価という観点で見れば、貧困問題の解決、あるいは各活動が明示的に掲げる理念を超えて、それぞれ異なる位相でのレジリエンス向上に資しており、従来の多くの社会諸科学や社会福祉学などの研究者らが想定するものとは異なる形で、新たな福祉社会を構築する可能性を秘めている。
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