研究課題/領域番号 |
24730457
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 熊本学園大学 |
研究代表者 |
井上 ゆかり 熊本学園大学, 水俣学研究センター, 研究助手 (10548564)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 公害 / 環境 / 水俣病 / 水俣学 / 被害 / 漁村 / 食物連鎖 |
研究概要 |
水俣病被害の内実は、自然生態系における食物連鎖からくる健康被害だけでなく、社会の中で漁民被害と漁業被害の環のつながりによって重畳的な水俣病被害をもたらしてきた。 研究代表者は、漁村における水俣病の健康被害、水俣病がもたらした村落共同体の変遷、被害隠しの内実、漁労長制度における水俣病被害の実態を「漁民被害」、1959年の不買宣言以降の販売不振による生活の困窮、漁民が水俣病に罹患し漁労長制度が消滅した被害、漁法の変遷、漁業補償契約が漁業にもたらした被害を「漁業被害」と位置づけ、社会学的な調査と医学的な調査を平行し行ってきた。 本研究は、重畳的な水俣病被害を漁民被害と漁業被害に区別して明らかにし、「社会的食物連鎖」という環のなかで水俣病被害を捉える視点をもち、漁村における水俣病被害の全容を解明することを目的としている。 本年度は、水俣病多発漁村の芦北郡女島において2011年6月から開始していた100人の健康調査を終了した。本調査は、本学の研究活動適正化委員会で承認を受けている。対象集落の漁民が書き残した日誌を解読するため同じ漁業組織にいた漁民へのヒアリングは継続中である。得られた情報の中から次の2点を明らかにした。まず、1点目は、ヒアリングや資料を通して得られた漁撈組織のなかの親族構造を家族樹形図として作成し、水俣病認定患者や各種救済手帳所持者、申請時期、申請理由、臍帯水銀値、漁業組織のなかでの役割などマッピングし、漁民被害を整理した。2点目には、地図上に対象集落で4親等以内に水俣病認定患者や各種救済手帳のみの家を色分けし、漁業組織を組み込み、水俣から15キロ離れた漁村における漁民被害の一端を明らかにした。 以上の調査研究により漁村における漁民被害の実態の一端を明らかにしたことは水俣病事件史のうえでもその意義は大きかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、水俣学研究の総体的展開の一部として下記の点に限定し研究調査計画を立てており達成度評価もこれにそっておこなう。 まず、調査対象集落である芦北女島集落の漁民が書き残した日誌を解読するため、同じ漁業組織にいた漁民へのインタビューを行った。一次資料をもとに漁民のインタビューと重ね合わせ女島集落における漁撈体制の具体的内容を明らかにし、漁村の共同性の特徴を把握する意義は大きい。現在、手書きされた日誌を起こし脚注を入れ解題を執筆中であり、水俣学研究センターの資料叢書として刊行する(印刷中)。 2011年6月から2012年8月までの期間、1997年以前に出生した全住民を対象に健康調査や社会学的な調査を行った。調査対象者は100名で健康調査の協力者は46名、社会学的な調査協力者もあわせると56名となった。対象集落において水俣病補償救済状況をマッピングし、同一の手法で津奈木町の漁村との比較検討を行い、地域特性が水俣病補償救済制度にどのような影響をもたらしているかを明らかにした。この調査の論文は、『水俣学研究』に投稿し印刷中である。この調査データは、研究代表者がデータベース化の方針を作成し、4月から入力作業を進行させている。これらの作業を通してさらに分析を行えば、過去に生起した問題のみならず、現在なお未解決の問題点を明らかにすることができる。また、漁撈組織のなかの親族構造や漁民被害の実態を家族樹形図として作成し、視覚的に漁民被害の実態を明らかにした。 以上の点から判断して、調査はおおむね順調であると判断するが、漁民被害を漁業と地域住民との人間関係の中に埋め込んで捉えることにより、漁民被害の具体的経過、被害の社会性と多様性を明らかにすることが今後の課題である。
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今後の研究の推進方策 |
2011年6月から2012年8月まで実施した健康調査と同時並行で進めてきた漁業調査は、戦後から現在までの漁業の変遷あるいは統体制の盛衰を経験してきた80~90歳代の漁民に継続したインタビューを行っている。このことで調査対象地における漁村の共同体としての特徴を、親族関係や生業を通して明確化することができる。インタビューは、できるかぎり大学院生らをアシスタントとして同行させ、記録や録音を容易にできるように工夫している。音声はテープ起こしを行い次回の聞き取りに活用する。 また、継続したインタビューを行いながらデータベース化作業を進めていくため新たな情報の追加や人口移動などの追加情報があるものと考えられる。そのため時間がかかると予測されるが、この体系的整理が漁村における共同体を考察するうえで基盤となる資料となるため、あえて記した。 今年度は、比較対象地域として同規模の漁村集落である水俣市茂道を選定し、類似した他地域と比較し固有性を明確化することを目的とした資料収集と漁民へのインタビューを開始する。現在、関係者と連絡調整中である。
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次年度の研究費の使用計画 |
旅費に関しては、継続して漁業調査を主に熊本県芦北町大字女島において実施し、本年度は水俣市茂道で資料調査ならびに漁業調査を行うため所要の経費を計上している。また、熊本県の水産試験場は熊本県天草市にあるため資料調査の旅費を計上している。学会報告のための旅費も計上している。 謝金に関しては、調査拠点または住民への報告会を行うための会議費、資料整理およびヒアリングデータのトランスクリプト、現地調査協力者への謝礼の費用として計上した。 アルバイト雇用に関しては、血族親族関係や水俣病認定状況、各種救済手帳所持状況、臍帯水銀値、漁労長制度などの分析などを全世帯にわたって行うため、膨大な個人情報のデータベース化作業となるため雇用する必要があり計上した。なお、アルバイト費用は、熊本学園大学の基準に従って設定している。 本年度未使用金額67008円が生じたが、データベース化方針を立て4月からアルバイトを雇用し入力中であるため、2013年度に計上する。
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