本年度の研究目標は、ハンセン病を経験した人々の生を把握し支えていく上で、今まで十分な考察の対象となってこなかった退所者のセルフヘルプグループの実態を解明することであった。本研究では、全国の「退所者の会」(セルフヘルプグループ)の参与観察および継続参加者への半構造化インタビューを実施した。その結果、「退所者の会」の最近の社会的活動は、国や地方自治体との交渉の他に、地元の保険医協会に働きかけて、ハンセン病に理解ある開業医を増やしたり(東日本)、幾つかの総合病院の看護部や相談室への啓発・教育を行い、医師やMSWに病歴を開示した上での退所者の受け入れを促す(関西)といった、一般医療機関への教育活動に重点が置かれていた。東日本・沖縄では社会啓発の機能が弱いのに対し、弁護士・SW・支援者の強力なバックアップがある関西では、社会啓発に力を入れており、中核参加者が語り部として関西圏で啓発活動を行うことで、ハンセン病へのスティグマを取り除こうと試みていた。これらの参加者は、最近に病歴をカムアウトした退所者をロールモデルとして、啓発活動に参加しており、自己変革と社会変革の相互循環が生じていることが示された。
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