本研究では、学童保育施設と居住系老人福祉施設の複合施設を研究対象とし、子どもと高齢者の自然発生交流を実現させている先進事例の観察・インタビュー調査から、ハード面およびソフト面から効果的な運営手法について明らかにした。子どもの交流対象を、高齢者だけでなく、介護職員や地域住民ボランティアにまで範囲を拡大し、高齢者福祉に対する子どもの感性を育むコミュニティについて具体的に考察した。 子どもは日常的に高齢者と接することで、叱られたり褒められたり、昔の遊びを覚えたり、目上の者に対する接し方や挨拶や認知症高齢者との会話の仕方を学んだりといった、世代をこえた人間関係を体験していることが分かった。介護・福祉環境の体験については、職員やボランティアによる介護を目にしたり手伝うことができる場があることによって、高齢者の老いや死を知る機会になっていることが分かった。一連の分析より、子どもと高齢者の日常的な交流には幅があることが分かった。より親密な関わりを生むためには、弱い関わりを重ねていって親密さを醸成させるという考え方が必要である。弱い関わりは、それ自体が主体にとって目的の行動ではないため、そういった行動が促される仕掛けを施す必要がある。ハード面では、玄関をひとつにする、居間のように使用できる共有スペースを備え、移動動線と隣接させる、別の行動をしていても互いの存在が確認できるなどといった空間づくりや家具配置が仕掛けとなる。ソフト面では、両者が自由に共在できるようスタッフが見守れる組織体勢が仕掛けとなる。共に参加する、遊ぶ、会いに行くなどといった強い関わりは、スタッフが仲介役となって両者の興味が重なるコトやモノを仕掛ける必要があることが具体的に理解できた。 本年度は、2年間の調査結果をまとめ、審査付き論文への投稿、および学術書(共著)の執筆を行った。
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