今年度は,平成24・45年度にひきつづき,主に日本・中国・韓国における雇用保障政策と社会保障政策について,家族政策との関連を強く認識しながら,それら諸政策の歴史・現状分析そして理論研究を行った。韓国を中心に研究実績の概要をまとめてみると次のようになる。 まず,歴史・現状分析について。20世紀末以降の韓国における福祉国家の整備過程をみると,雇用保障政策に関しては,西欧諸国の福祉国家整備過程にみられた完全雇用政策,つまり「製造業分野を中心とした雇用拡大政策」とは異なり,「サービス産業分野を中心とした雇用拡大政策」が展開された。後者の政策は,前者の政策の前提であった男性稼ぎ主モデルの家族ではなく,共稼ぎ主モデルの家族を前提とせざるをえず,そのため社会保障政策では,世帯主としての男性労働者を中心とした「職域どごの労働者保険」ではなく,国民個々人を全国統一的な制度からカバーする「単一型の国民保険」を構築した。重要なのは,この雇用保障・社会保障政策の展開と関連して「男性稼ぎ主モデルを支援する家族政策」ではなく,「共稼ぎ主モデルを支援する家族政策」が積極的に推進されたことである。 次に,理論研究について。以上のような韓国の経験は後発福祉国家であるがゆえにあらわれたものといえる。すなわち,「サービス産業分野を中心とした雇用拡大政策」・「単一型の国民保険」・「共稼ぎ主モデルを支援する家族」を機軸とする福祉国家の整備は,20世紀の工業化時代に福祉国家の整備に乗り出した先発国としての西欧諸国とは違って,21世紀の脱工業化時代に福祉国家の整備に乗り出した後発国としての韓国が選択せざるをえなかった福祉国家化のパターンと捉えることができる。 本年度の研究では,以上のような視点にもとづき,韓国だけでなく日本や中国についても分析を行いつつ,後発福祉国家としての東アジア諸国・地域の類似性と相違性の究明を試みた。
|