研究課題/領域番号 |
24730476
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 愛知県立大学 |
研究代表者 |
野田 博也 愛知県立大学, 教育福祉学部, 講師 (00580721)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 金融排除 |
研究概要 |
本研究の目的は、不意の出費や生活基盤の形成に関わる有形・私有のストック資源に焦点を置き、そのストック資源を充足する貧困対策の意義と課題を明らかにすることであった。1年目の実施計画においては、ストック資源と貧困に関連する概念の考察を中心とした理論的な研究を中心に進める予定であった。 この研究成果(実績)として、「金融排除の概念」(『愛知県立大学教育福祉学部論集』)を執筆した。有形・私有のストック資源を調達するうえでは基礎的金融サービスの利用が不可欠となっている。金融排除論は、この基礎的金融サービスの利用が困難になる過程を示している。金融排除は社会的排除の一面として理解され、イギリス政府の貧困対策の一部を担ってきた。この研究では、この金融排除の概念について社会的排除論と貧困論の知見をもとに考察し、金融排除概念に啓発的・象徴的な特質がある反面、分析的・計量的な概念(定義)としては曖昧であることを明らかにした。そして、近年の社会生活における基礎的必要の充足をとらえるうえで金融サービス領域を考慮することは重要であり、貧困概念の物質的側面におけるストック部分やその充足手段としての金融サービスを利用することを議論する必要性が示唆された。 また、「イギリス政府における金融包摂策のアジェンダ設定」(『人間発達学研究』)も執筆した。この論文では、上述した「金融排除」という啓発的・象徴的な用語を使用した実際の政策展開の特徴について、特に90年代後半から2000年代前半のイギリス労働党政権の取り組みを通して、分析・考察した。当初は金融排除をめぐる複数の論点が示されており、関連する調査研究や改善策も一部実行されていたが、最終的な国家戦略活動計画においては「普遍的銀行サービス」を郵便局ネットワークを使って広げることなどに焦点が絞られてきたことを指摘した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初は、貧困対策における貯蓄促進アプローチを狙った資産ベース福祉政策の議論を中心に理論的議論を進める予定であった。 しかし、研究を進めるなかで、資産ベース福祉政策論の前提的な社会問題ないし政策論議として、金融排除や金融包摂に関する議論が展開されていることがわかった。しかし、金融排除・金融包摂については、貧困論との関連からの議論が海外でも十分ではなく、まして日本における議論は(特に貧困対策に関連すると)ほとんど進んでいないことも分かった。このため、資産ベース福祉政策研究を表層的なものに終わらせないためにも、まず金融排除・金融包摂研究に手を付ける必要があるものと判断した。そして、実際に研究を進めて研究成果を挙げた。 他方で、当初予定していた資産ベース福祉政策に直接関連する理論的研究については、まだ深める余地が残されている。
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今後の研究の推進方策 |
地域別の視点でみると、1年目はイギリスを中心とする金融排除論に関する理論的な検討や政策動向に関する検討については程度進めることはできた。 2年目は、イギリスの動向についても更に検討を進めながら、日本やアメリカでの議論や政策展開についても研究を進める。 この場合、政策の実際の展開を追いながら、その背後にある理論的な議論を確認し、両者の検討を進めていく予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
文献研究であるため文献の購入は研究費支出の多くを占めることになる。また、昨年度は災害のために海外視察がキャンセルとなってしまったが、今年度は海外視察を行い、そのために必要な旅費や滞在費を支出する予定である。 この他、英語論文の執筆も計画しており、その英文校正に要する費用も支出する予定である。この他、研究の遂行のために必要なパソコン周辺機器や文具などについては適宜購入する。
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