研究実績の概要 |
本研究の目的は、生活基盤の形成や臨時的必要等に応じるストック財を重視する貧困対策として、アメリカ等で注目される「資産福祉」に注目し、その特徴や意義・課題を明らかにすることであった。 4年目は、海外の動向として、アメリカの特定の地域や組織の実践に着目し、より具体的な展開を分析した。特に、原理的な研究との関連では、再分配の視点だけでなく、承認の視点を取り組むことの重要性を検討した。また国際比較的な観点からも検討を試みた。国内については、貧困対策の初期過程である実態把握について、資産がどのように認識されているのかも含めて検討した。また、生活困窮者自立支援等の低所得対策の展開にも注目した。 2015年度中に刊行された研究成果としては、まず、How does the Japanese Government measure and announce its poverty rate?、Social Welfare Studies, Department of Social Welfare School of Education and Welfare がある。この論文では、公共政策としての問題認識における貧困概念は、子どもを中心とした世帯の「所得の貧困」を中心とし、高齢者の貧困や貯蓄等を含む「資産の貧困」は除外されている特徴のあること等を指摘した。また、「ハワイにおける資産福祉の文化的視座」『人間発達学研究』では、民族構成が多様なハワイにおける資産福祉の展開について検討した。資産福祉の議論は、長期的な視点において他の再分配政策とは区別されるが、承認の視点については議論されていなかった。この研究では、先住民の文化的な特徴が資産福祉の構想・理念で重視されていることが分かったが、より具体的な実践においては更に検討を進める必要があることが分かった。
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