研究課題/領域番号 |
24730480
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
秋谷 直矩 京都大学, 物質-細胞統合システム拠点, 研究員 (10589998)
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キーワード | 高齢者 / コミュニケーション障がい / エスノメソドロジー / 会話分析 |
研究概要 |
25年度の研究成果は以下のとおりである。まず、認知症高齢者グループホームでは、「認知症」やその他加齢に伴う身体的機能の低下により、本来ならば「ある(とされる)」能力が発現できなくなっている、ゆえにそれを再発現できるようなケアをしようというケアの方針設定があるということが調査を通して見出された。一方、若年性認知症者の集まる作業所では、「認知症」を「病気」と定式化したうえで、様々な日常生活上のトラブルをそのもとで理解すべきと方向づける実践が見られた。両者は、認知症の進行段階により、対象者に対するコミュニケーションの仕方が、他者によって異なる方針のもとで調整されることを示している。 認知症を「介護者と当事者とのコミュニケーションの問題」と位置づけた研究は、昨今注目されている。上述の知見を念頭においた、様々なコミュニケーション場面の実践上の論理や知識のレリヴァンスの分析を本研究課題で行うことにより、その知見の蓄積に寄与することができると思われる。26年度はこちらについて注力する。 以上と並行して、認知症以外の高齢期のコミュニケーション障がいである「視覚」についても調査を始めた。こちらは、視覚障がいをもつ人びとに対して行われる生活指導実践を対象にしたものである。高齢者におけるそれとの比較事例としてこちらの調査は進めているが、現時点で、たとえば「空間認知」の問題、すなわち個人の認知の問題として設定されてきたものを、「社会秩序」や「規範の問題」としても検討可能であるという知見が見出された。これについては、高齢者における視覚の問題においても検討可能な知見であると思われる。こちらについても、26年度はより詳細な分析を進める予定である。 以上の知見は、加齢に伴うコミュニケーション障がいとその支援を考える際のリソースとしての利用可能性が期待され、その点において重要性をもつものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
25年度は、3年で実施予定である本研究課題の2年目である。交付申請書では25年度は調査の継続と速報的研究成果公開が予定されていた。それを踏まえ、25年度の研究実績を以下にまとめる。 調査の継続について以下に示す。調査は関西北部の認知症高齢者グループホームにて継続的に調査を行い、調査データは順調に蓄積されている。また、東京都内の認知症グループホーム1件と若年性認知症作業所1件の調査協力も得られ、25年度末に集中的に調査を行った。さらに、視覚障がい者のコミュニケーションの調査も開始した。こちらは研究課題の対象とした「高齢者」ではないが、これまでに得た調査データを分析する際の、コミュニケーション障がいの比較事例として調査を進めている。 成果公開について以下に示す。本研究課題にかかわる研究報告は以下2件である。まず、5月の第64回関西社会学会にて、視覚障がいに関する調査成果の研究報告を、「身体運動と知覚のエスノメソドロジー:視覚障害者歩行訓練場面の分析」という題目で行った。また、3月に、電子情報通信学会第3種研究会ヴァーバル・ノンヴァーバル研究会第8回年次大会にて、「『始まりと出会いのコミュニケーション』を対象にしたエスノメソドロジー会話分析研究の射程」という題目で発表した。続いて書籍・論文の公刊については、以下2件である。まず、本研究課題の副次的成果として、調査方法・方法論についてまとめる機会があったため、こちらについては、12月に『フィールドワークと映像実践』ハーベスト社という題名で書籍にまとめ公刊した。また、研究論文として「社会的行為としての歩行:歩行訓練における環境構造化実践のエスノメソドロジー研究」としてまとめた。こちらは26年度中に「認知科学」にて公刊予定である。 以上のとおり、交付申請書に記載したスケジュールから遅滞なく研究は進行している。
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今後の研究の推進方策 |
26年度は、研究計画の最終年度である。したがって、研究成果の公開を中心に進めていく。なお、認知症グループホームや作業所、視覚障がい者の生活指導場面の調査は、26年度も継続し、引き続き知見の蓄積を進める。調査進行上の問題は現時点で生じていないため、本研究課題遂行について、交付申請書に記載した予定スケジュールのとおり進められると思われる。なお、研究成果の公開については、得られた知見の論文化と並行して、研究期間内での速報性を重視し、学会等の口頭発表を積極的に進める。
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次年度の研究費の使用計画 |
25年度は、調査および調査成果についての報告が本研究課題にかかわる研究活動の多くを占めたため、旅費中心となった。なお、25年度はパイロット的な分析および成果報告を進めたため、詳細な分析は26年度に回した。その結果、詳細な分析に必要なソフトウェアおよびその運用に足りるスペックをもつパソコンの購入は26年度に見送った。その分を繰り越した結果、次年度使用額が生じた。 「理由」に記載したとおり、繰り越した次年度使用額の用途は分析用ソフトウェアとパソコンの購入分である。こちらについては、26年度中に購入する。それをもって、分析を進める。当初より26年度分で請求している助成金は引き続き調査成果公表のための旅費にあてる予定である。
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