研究課題/領域番号 |
24730487
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研究機関 | 日本福祉大学 |
研究代表者 |
鈴木 佳代 日本福祉大学, 健康社会研究センター, 主任研究員 (90624346)
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キーワード | ライフコース / 健康 / 高齢者 / ソーシャルキャピタル / 社会経済的地位 / SOC |
研究概要 |
本研究は,高齢者のライフヒストリーをインタビュー調査によって聞き取り,ライフコース的視点から高齢期の健康の維持生成プロセスを明らかにしようとするものである。平成25年度には,前年度の基礎研究や7名のインタビューに基づき,13名の高齢者に2回ずつインタビュー調査を行った。その内訳は,愛知県武豊町の「高齢者憩いのサロン」で声をかけた1ケース,地域包括支援センターからの紹介4ケース,社会福祉協議会からの紹介6ケース,インタビュー協力者からの紹介2ケースである。社会福祉協議会に協力者候補の紹介を依頼したことで,前年度でリクルート地としていた「サロン」に参加していない,より多様な高齢者から話を聞くことができた。インタビュー音声は専門業者による文字起こしを行い,そのうち一部については,質的分析用ソフトウェアを用いて,断片化作業(発言を要素ごとに分け,インタビューごとに数百のカードを作成すること)を行い,分析準備を進めることができた。 一方で,これまでにインタビューを行った20名は全員,何らかの日常的なつながりを持った高齢者であり,社会的つながりの薄い高齢者への聞き取りが行えていない。この課題の克服のため,愛知県東海市大池地区で,「健康交流の家」を利用していない高齢者に対するアンケート調査を実施する際,インタビュー協力者を募る調整を進めた。 10月には第86回日本社会学会大会に参加し,高齢者が壮年期に経験した逆境経験とレジリエンスに関するライフコース視点からの質的分析の報告を行った。さらに,関連する量的データを用いて,女性にとって職歴がないことが高齢期の社会参加の少なさと関連することを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ライフコース研究や質的調査方法について文献パイロットスタディを受けて平成24年度に修正した研究計画では,20~25名の高齢者を対象に,2回にわたってライフヒストリーを聞き取ることを目標とし,平成25年度中にインタビュー調査の大半を完了させることをめざしていた。平成25年度2月までに,20名への聞き取りを完了したことから,調査はおおむね順調に進展していると言える。 平成24年度の課題として,調査協力者のリクルート場所を武豊町高齢者憩いのサロンに設定したことによる,対象者の多様性の欠如があった。平成25年度の調査では武豊町社会福祉協議会と包括支援センターの協力を得て,要支援・軽度要介護状態にある高齢者や,ボランティアとして積極的に社会活動を行っている高齢者など,より多様な高齢者から話を聞くことができた。前年度に引き続き,半構造化面接法により,高齢者本人のナラティブを引き出すことに成功した。 一方, 20名からの聞き取りを達成し,より多様な対象者から現在の生活像が得ることには成功したものの,社会的つながりの薄い高齢者への聞き取りが不十分であるという課題が残った。そこで,研究代表者が介入研究への関わりを持つ愛知県東海市大池地区で,「健康交流の家」館長と,東海市高齢者支援課との調整を進めた。その結果,「健康交流の家」を利用していない高齢者に対するアンケート調査を平成26年度に実施する際,ライフヒストリーの聞き取り調査に協力いただける方に連絡先を書いてもらう欄を設けることに承認が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度中に実施したインタビューについて,分析のための断片化作業を行い,具体的な軸を設定して分析を実施する。 平成24年度には,愛知県武豊町にある「憩いのサロン」に参加している高齢者を,平成25年度には「サロン」および社会福祉協議会・地域包括支援センターから紹介された高齢者を対象としてインタビュー参加者とコンタクトをとってきた。その結果,これまでにインタビューした20名は,社交的な性格でなんらかの社会的つながりを持つ者,とりわけ社会経済的状況が比較的恵まれた層に偏りがちになった。平成26年度には,東海市で地域の「健康交流の家」での活動に参加していない高齢者6名程度を対象としてライフヒストリー・インタビューを行い,文字起こしと断片化作業を行う。これにより,比較的社会的つながりの薄い層を含めたデータを得ることをめざす。 また,7月に横浜で開催される世界社会学会議において,関連する量的データの分析により得られた知見である「職歴のないことが高齢女性の社会参加の少なさに結び付いている」点について報告する。このテーマについては,質的データによる再検証を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
計画では平成25年度中までに20名から25名のインタビューを実施する予定だったため,平成25年度に13名から18名程度の対象者に聞き取りを行うことを予定していた。また,インタビュー時間は対象者によって長くなることもあり,文字起こしにかかる費用が大幅に増える可能性が見込まれた。インタビュー可能な対象者が見つかったにもかかわらず,予算不足によりすぐにインタビューが実施できない事態が発生することを避けるため,あらかじめ多めの予算額を確保しておいたという事情がある。平成25年度中のインタビュー実施は13名にとどまったため,約15万円の次年度使用額が発生した。 平成26年度は,東海市で実施するインタビュー調査に関わって発生する交通費・謝金・文字起こし業務費を中心に,論文の英語校正や学会出張費等に研究費を使用する。
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