平成26年度は感情労働と精神的健康の関連を調べるという本研究の目的に対して、文献研究と調査研究を実施した。文献研究では、さまざまな感情労働に関する先行研究について比較検討した。その結果、多くの研究において表層演技がバーンアウトやストレス反応に影響を与えているという結果が導き出されていた。ただし一部、表層演技が精神的健康に関連しないとしている研究もある。また深層演技に関しては仕事満足感に繋がるという知見や、ストレス反応に関連するという知見までさまざまな見解が示されている。感情労働と精神的健康は無関係であるとする研究もある。このようにさまざまな対象、さまざまな研究者によって感情労働と精神的健康の関連が調べられているが、一貫した結果が得られていない。また看護師を対象とした研究でも研究者によって結果がまちまちであることからも、先行研究それぞれが定義する「感情労働」概念に違いがあるのではないだろうか。 Hochschild(1983)の感情労働論で注目すべきは、感情が個人の内側と外側で一致しない可能性を指摘したことだろう。それでは感情をズラすときと一致させるときの違いは何だろうか。筆者はP-Fスタディ図版のようにフラストレーションを喚起させるような場面(仕事中、家での私的場面、私的な外出場面(高齢者に席を譲って文句を言われる等))の図版を作成した。それらを用いて心の中に思ったことと実際に表出することを書いてもらった。その結果、仕事中の場面では、すべての対象者が心の中と表出をズラしていた。それに対して私的な場面、あるいは家の外だが仕事ではない場面では、心の中と表出を一致させて相手に文句を言い返すような対象者が数名いた。 またケア労働者、特にこれまであまり研究がなされてこなかった保育者がどのように感情をコントロールしているのかについて調査した。結果は分析中である。
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