研究課題/領域番号 |
24730506
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 追手門学院大学 |
研究代表者 |
荒井 崇史 追手門学院大学, 心理学部, 講師 (50626885)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 情報発信 / 犯罪情報 / 防犯情報 / 犯罪抑止 / 犯罪不安 / 防犯対策 |
研究概要 |
本年度の研究目的は,犯罪や防犯に関する情報発信の実態を把握し,次年度以降に実施予定の調査研究に向けた準備を行うことであった。本目的に沿って,本年度は各都道府県警察本部の提供する情報発信の実態を把握するための検討を行った。具体的には,各都道府県警察に所属する生活安全関連部署の担当者を対象とした研修において,当該部署に所属し情報発信を担当する担当者にアンケート調査を実施した。調査の具体的な内容については,犯罪や防犯に関する情報を一般市民に発信する上での枠組みや提示方法として意識している点,犯罪や防犯に関する情報を一般市民に対して発信する上で困難に感じている点などであった。なお,担当者に関しては既にHPやチラシなどを実際に作成した経験がある者と経験のない者が含まれていたため,それぞれを分けて検討を行った。 その結果,実務経験がある者もない者も,レイアウトや文言など情報発信の形態的側面を重視する傾向があった。発信する情報に何を盛り込むか内容的側面に関しては,実数を示すことが効果的か,具体的事例の提示が効果的か,あるいは特定の罪種に対してどのような対策がどの程度効果的かなど,情報発信の効果について判断に困る面が多々あり,こうした情報を安易に提示しない姿勢が回答の少なさとして現われたと考えられる。これを逆に考えると,内容的な面では都道府県をまたいで画一的になりやすい可能性があることが予想される。一方,実務経験者と未経験者では,経験者ほど市民の目を引きやすい情報発信を心掛ける傾向があり,写真・イラストなどの情報を重視する傾向がうかがわれた。 本年度の成果については,当初の計画からの変更はあるが,通常ではアクセスすることが困難な警察実務者に対してアンケート調査を実施し,情報発信当事者の意識を把握することができた点で意義があると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度の研究目的は,犯罪や防犯に関する情報発信の実態を把握し,次年度以降に実施予定の調査研究に向けた準備を行うことであった。本年度は,当初の計画から変更があったものの,各都道府県警察の防犯実務担当者に対してアンケート調査を行い,犯罪情報や防犯情報を市民に発信する際の意識を把握する機会が得られた点で意義があったと考えられる。既に発信された情報を把握し,その内容を分析することも重要であるが,そもそも当該情報の発信元である担当者の意識を把握することは,現在の情報発信の方向性を把握する上では重要であると考えられる。 その一方で,実際にHPやチラシを通して一般市民に発信された情報を把握する目的に照らしていえば,本年度の進捗状況はやや遅れていると判断される。もちろん,インターネットが普及した現代において,発信される情報を網羅的に把握するためには多くの時間を要することは予想されていた。こうした予想はしていたものの,当初に情報を網羅しようと固執し,情報内容の多様性に頭を悩ませ,分類枠組みを構築するために試行錯誤を繰り返したことが,研究の遅れの一因であると考えられる。具体的には,犯罪に関する既存研究にあたり,また他分野の枠組みを検討したりと,情報の多様性を全て包含する枠組みを構築することに多くの時間と労力を費やした。しかし,そうした包括的な枠組みよりも,むしろ多様な情報の一側面に着目して研究を進める方が,合理的であり,かつ建設的であると判断されたため,本年度の途中において,分類枠組み構築の方針を変更した。 このように,本年度は若干の遅れがあるものの,情報をどのように捉えるか,その枠組みに関して指針が得られたことから考えると,次年度以降に計画している実証研究に向けて,ある程度準備はできつつあると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究については,本年度実施した実務者に関するアンケート調査及び情報の分類枠に関する文献調査や分類枠組のあり方に関する考察を踏まえて,研究計画に含まれる実証的研究を行う予定である。 具体的には,研究2において,一般市民を対象に調査研究を実施する予定である。この際に,一般市民に知覚された防犯情報や犯罪情報の量と,犯罪不安や犯罪被害リスク認知,そして犯罪予防行動との関連性を捉えることで,犯罪予防行動や犯罪不安を最適化するための情報発信のあり方を検討する。同時に,防犯・犯罪情報の提供が,行動や感情に及ぼす背景要因について検討する。 また研究3においては,情報発信によって犯罪が抑止されるのかどうかを,調査研究を通して検討する予定である。具体的には,情報発信量の違いによって犯罪発生件数に差が生じるのかどうかを明らかにする。この際,何をもって情報発信量とするかが問題となると考えられるが,本研究では一般市民に知覚された情報を知覚情報とし,知覚情報量と当該地区の犯罪発生頻度などの公式統計とを組み合わせることで,犯罪・防犯情報の発信が犯罪を抑止する上で有用かどうかを検討する。 なお,当該分野の先行研究や国内外の研究者や有識者との議論を踏まえて,研究2及び研究3の調査内容や方法の細部については柔軟に変更する。また,当初は研究2及び研究3ともサンプリング調査を実施する予定であったが,具体的な調査法は,研究の実現可能性と費用対効果を考慮するとともに,調査対象者や調査内容に照らして最適な方法を選択する。 さらに,研究4においては,よりミクロな視点になるが,犯罪情報の取得が,潜在的加害者の逮捕のリスク認知を変容させるか否かを実験的手法を用いて検討する。
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次年度の研究費の使用計画 |
当該研究費が生じた状況については,研究1(犯罪情報及び防犯情報の情報発信の実態把握)の実施状況がやや遅れているところに一因がある。当初の計画では,情報発信の実態把握に加えて,本年度中に情報発信と市民の犯罪不安や被害リスク認知,犯罪予防行動との関連を実証的に検討することを計画しており,その点を踏まえて予算申請を行った。しかし,研究1の知見を踏まえずに,研究2において具体的な調査研究を実施することにメリットがないと判断し,当該年度の調査研究は次年度に実施することとした。 以上の状況を踏まえて,次年度は,研究2及び研究3において,一般市民を対象とした実証的な調査研究を行う。そのため,当該研究費については,次年度に実施する調査研究の調査費用に充てるとともに,得られたデータの解析の際に必要とされる機器及び分析ソフトの費用として,次年度予算と併せて使用する予定である。なお,当初の計画においては,一般市民を対象としたサンプリング調査を実施する予定であったが,費用対効果および研究の実現可能性などを考慮して,適宜,調査手法を修正する予定である。
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