研究実績の概要 |
本年度の当初の目的は,犯罪情報が加害者の逮捕されるリスク知覚をどの程度高めるかを実験的に検討することであった。この目的に沿って研究を実施するにあたり,まず提示刺激(犯罪・防犯情報)を検討する文献研究を行った。近年の研究文献を検討したところ,擬似的な他者の「目」の存在が,反社会的行為(不正行為)を抑止する可能性が示された(例えば,Nettle, Nott, & Bateson,2012)。当初のような活字での情報提示と比較して,擬似的な他者の「目」を刺激とすることで,簡便に刺激を提示することが可能になるだけではなく,社会的動物である人間にとってよりインパクトのある刺激となる可能性がある。このことから,本年度の実験的検討では,大学生を対象に擬似的な他者の「目」が反社会的行為(不正行為)の抑止に有効であるかどうかを検討することと修正した。 実験手続きは,実験内容と倫理的配慮の説明後,特定の条件下でEnterキーを押す反応速度課題を5試行実施した。なお最終試行の際に,他者の「目」の写真を提示する実験群,統制群として,目に模した花の写真を提示する群と何も提示しない群とを設定した。最終的に,2回とも裏が出れば謝礼を渡すと伝え,実験者が退室中にコイン・フリップを実施するように実験参加者に求めた。この手続きに従い,本研究の従属変数となるコイン・フリップで2回とも裏となった割合を算出し,2回とも裏となる数学的確率と比較した。実験の結果,いずれの群でも2回とも裏が出た実際の確率と,2回とも裏が出る数学的確率とには統計的に有意な差は見られなかった。今回の研究では,2回とも裏が出ることで謝礼がもらえる状況を想定したが,統制群でも特に際立った確率の増加は見られなかったことから,多くの実験参加者が不正をするような状況にならなかったと思われる。これらの点については,今後改善の余地が残されている。
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